X(旧Twitter)が2025年8月に発表した一連のアップデートは、SNS広告業界に大きな変革をもたらしています。「より良い広告」を目指すビジョンの下、AI技術の本格導入、広告ポリシーの大幅変更、そして新機能の展開など、マーケターが知っておくべき重要な変化が数多く含まれています。
本記事では、これらのアップデート内容を詳細に解説し、ビジネスパーソンの皆様にとって実践的な活用方法をお伝えします。
X社は2025年8月、広告に関する根本的なビジョンの刷新を発表しました。その中核となるのが「より良い広告」の提供と、ユーザーが「後悔のない時間をXで過ごせる」環境の実現です。
従来のTwitter時代から名称・経営体制が変わったX社ですが、この新ビジョンは単なる理念の表明に留まりません。具体的には、タイムライン上でユーザー体験を損なわない広告配信の実現を目指し、ユーザーからのフィードバックを真摯に受け止めながら広告機能の継続的なアップグレードを行う戦略です。
この方向性は、近年のデジタル広告トレンドとも合致しています。消費者の広告に対する意識が厳しくなる中、押し付けがましい広告ではなく、ユーザーにとって価値のある情報として受け入れられる広告が求められているのが現状です。
新ビジョンの特徴は、広告主とユーザーの双方に価値を提供することを明確に打ち出している点です。これまでのSNS広告は、どちらかというと広告主の利益を優先し、ユーザー体験は二の次になりがちでした。
しかし、X社は「有意義で有益な時間の提供」をユーザーに約束する一方で、広告主に対してはより効果的な広告配信とビジネス成長支援を提供するという、バランスの取れた価値提案を行っています。
2025年8月の最大のトピックの一つが、X社の独自AIアシスタント「Grok 4」の全ユーザー無料開放です。これまで一部制限があったGrokですが、現在は利用制限も緩和され、誰でも様々な用途で試すことが可能になりました。
Grokは高度な生成AI技術を搭載しており、広告分野でも以下のような活用が計画されています。
広告クリエイティブ作成支援
ターゲティング最適化
X社はAI技術を活用したレコメンド機能にも注力しています。具体的には、ユーザー行動に基づく商品レコメンドや、ブランドセーフティ判定、広告クリエイティブ最適化などをAIに担わせる構想が進められています。
将来的には、広告の運用を自動化して媒体バイヤーやストラテジストの役割を統合することも目指されており、これにより適切なユーザーに適切な広告を届ける精度の大幅な向上が期待されます。
広告の最新ソリューションとして、ダイナミック商品広告(DPA)の活用も拡大しています。DPAを活用することで、以下のような自動化された広告配信が可能になります。
これらの機能により、EC事業者を中心に売上やコンバージョンの大幅な改善が期待されています。
2025年6月末から8月にかけて、X社は広告クリエイティブのポリシーを大幅に見直しました。目的は、タイムラインに自然に溶け込むシンプルな広告の実現です。
主な変更点は以下の通りです。
変更内容: 広告ポストの本文内にハッシュタグ(#)を含めることができなくなりました。
影響: 従来は広告文中にキャンペーン名等のハッシュタグを入れるケースもありましたが、今後は禁止されます。
対応策: ハッシュタグ付き投稿への誘導が必要な場合は、会話ボタン内の選択肢にハッシュタグを入れるなど、間接的な手法での対応が必要です。
変更内容: 広告ポスト本文にURLを含めることができなくなりました。
代替手段: リンク誘導を行う際は「ウェブサイトカード」(リンク先へのボタン付きカード形式)の使用が必須となります。
メリット: 不必要な文字列を省き、広告をより洗練されたものにすることが可能です。
グローバル制限: 世界共通で「#️⃣」や「✅」の絵文字を含む広告出稿が禁止されました。
地域別制限: 日本および韓国以外の地域向け広告では、2種類以上の絵文字を本文に含めることができません。
日本市場の優遇: 日本と韓国をターゲットとする広告については、従来通り複数絵文字の使用が可能です。
これらの変更は、広告表現の過度な装飾を抑制し、ユーザーにとって読みやすく洗練された広告クリエイティブを実現するための施策です。「広告がよりシンプルで訴求力が高くなり、タイムラインに自然に馴染む形式となる」ことを狙っています。
実際、過度な装飾やハッシュタグの乱用は、ユーザーにとって煩わしく感じられることが多く、このような制限により広告の質的向上が期待されます。
X社は、モバイル計測パートナー(MMP)のリーディングカンパニーであるAppsFlyerとの連携を開始し、iOS広告計測の精度向上と範囲拡大を実現しました。
この連携により、AppsFlyerは業界初のAdvanced SRN(セルフレポーティングネットワーク)連携をX広告と開始し、同社がX広告における最初の公式MMPとなっています。
この連携は、TikTokやSnap、Metaといった主要広告ネットワークで既に導入されているプライバシーに配慮した計測ソリューションの一環です。AppleのATT(App Tracking Transparency)環境下でも、以下のようなメリットを広告主に提供します。
包括的なパフォーマンスデータ
データ駆動型意思決定の強化
X社は、話題になりそうなトピックを月ごとにまとめた「モーメントカレンダー」の最新版(2025年10月~12月版)をリリースしました。
収録内容:
活用メリット:
マーケターはこの資料を活用することで、X上でどのような話題が盛り上がりそうかを予測し、効果的なマーケティング戦略に活かすことができます。
X社は2025年、新機能「Xポータル」を初めて日本市場で実施しました。第一弾として7月20日~8月3日の期間限定で、人気アニメ『鬼滅の刃』と連携した「鬼滅の刃ポータル」がX上に開設されました。
統合プラットフォーム機能
ユーザーアクセス方法
提供コンテンツ
現在のところ日本限定機能ですが、鬼滅の刃ポータルの成功を受けて、X社は今後他のブランドや作品との連携も視野に入れています。マーケターにとっては、X上に特設サイトを期間限定で開設できる新しいプロモーション手法として、今後提供可能なメニューになる可能性があります。
X社は「今後数週間以内」に、ブランドや商品をより適切に表現でき、タイムラインに自然に馴染む新しい洗練された広告フォーマットを導入予定であると発表しました。
レイアウトの簡素化
自然な統合性
想定される具体的改善点
新フォーマットのリリースに向けて、マーケターは以下の準備を進めることが推奨されます。
X社のオーナーであるイーロン・マスク氏が8月6日に行ったTwitter Spaces上でのライブトークセッションでは、X広告の未来像について革新的なビジョンが語られました。
Grokによる全自動運用 マスク氏は、自社開発の生成AI「Grok」を用いて将来的に広告運用を全自動化するビジョンを提示しました。具体的な活用領域は以下の3つです。
マスク氏は「Grokがメディアバイヤーやストラテジスト、アカウントマネージャーの役割を一体化する」との見解を示しました。これは広告業界における職種や役割分担の再定義を意味します。
自動化される業務
人間が担う業務
マスク氏は理想的な広告運用について「広告をアップロードして何もしなくて良い。あとはGrokが全て判断する」と述べ、その革新性を「まるで魔法のようだ」と表現しています。
この構想が実現すれば、広告主は素材をアップロードするだけで、AIが最適な配信設定やクリエイティブ調整を自動で行うという、これまでにない広告運用が可能になります。
2025年10月~12月版のモーメントカレンダーには、年末商戦に向けた重要なイベントが多数収録されています。効果的な活用方法は以下の通りです。
新しい広告ポリシーに対応したクリエイティブ制作では、以下の点を重視する必要があります。
項目 | X (旧Twitter) | Meta (Facebook/Instagram) | TikTok | |
---|---|---|---|---|
AI統合度 | Grok統合で先進的 | 標準的なAI活用 | アルゴリズム特化 | ビジネス特化AI |
リアルタイム性 | 最高レベル | 中程度 | 高い | 低い |
ブランドセーフティ | Grokによる自動判定 | 人的+AI判定 | 改善中 | 高水準 |
広告フォーマット | シンプル・洗練 | 多様・豊富 | 動画特化 | テキスト重視 |
ターゲティング精度 | AI進化中 | 成熟している | 行動データ強力 | 属性データ正確 |
適している企業タイプ
適している施策
鬼滅の刃ポータルの成功は、以下の要因によるものと分析されます。
成功要因
他業界への応用例
Grokの活用により、以下のようなパーソナライゼーション戦略が可能になります。
実装可能な戦略
必須対応事項
推奨対応事項
戦略的取り組み
組織・スキル開発
技術的リスク
対策
X社の2025年8月アップデートは、SNS広告業界における重要な転換点を示しています。AI技術の本格導入、ユーザー体験重視の広告ポリシー変更、そして革新的な新機能の展開により、X広告は従来の枠組みを超えた進化を遂げています。
重要なポイント
マーケターの皆様には、これらの変化を単なる制約として捉えるのではなく、より効果的で洗練された広告コミュニケーションを実現する機会として活用していただきたいと思います。特に、AI技術の活用とユーザー体験の向上を両立させることで、ブランドと消費者との新しい関係性を築くことが可能になるでしょう。
今後もX広告プラットフォームの進化は続きます。継続的な情報収集と柔軟な戦略調整により、変化を先取りしたマーケティング成果の最大化を目指していきましょう。
筆者プロフィール:中元鈴香
BtoB領域に特化したライター。5年以上にわたり、SaaS、IT、人材、コンサル業界のコンテンツ設計とライティングに従事。上場企業のオウンドメディア立ち上げや、中小企業のSEO内製化支援も多数経験。デジタルマーケティングの最新トレンドを分かりやすく解説することを得意とし、実践的な視点からビジネスパーソンに役立つ情報を提供している。
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