――今回は株式会社ベイジ代表の枌谷(そぎたに)さんにインタビューさせていただきます! よろしくお願いします。
枌谷さん:よろしくお願いします。
ベイジと言えば「BtoB向けのウェブ制作会社」というイメージが強いですが、あらためてどんな会社か教えていただけますか?
枌谷さん:そうですね。BtoB企業のウェブサイト制作や業務システムのユーザインタフェース改善を得意とする会社です。ただ、最近はいわゆる「制作会社」ではなくなりつつありまして。
――と言いますと?
枌谷さん:デザインやコーディングなど手を動かすことに対価をもらうんじゃなくて、アイデアや設計などの「頭脳」的な部分に対してお金をいただく、という形に変えようとしているんです。
現在はデザイナーやエンジニアなどが中心の会社ですけど、コンサルタントメインの会社になっていく感じですね。その転換をここ1〜2年はずっとやっていて。
――なるほど。でもベイジさんは知名度も高く、現在も多くの企業さんから発注をもらっていると思います。そういう中で敢えて転換を図る理由って何なのでしょう?
枌谷さん:もちろん様々な理由があるわけですが、端的に言えば、ウェブ制作の市場がどんどん縮小しているからですね。そういう中で利益を出せる企業もあると思うんですが、全体としては今後大きく伸びることはないだろうと。
――それはノーコードツールやAIなどの発達によって、技術がコモディティ化していることが原因ですか? つまり、ウェブサイト制作のハードルが下がっているというか。
枌谷さん:確かにAIは象徴的ではありますけど、テクノロジーって「誰でも簡単に使える方向に進化していく」もので、そういう意味では自然なことなんです。
つまりどんな技術にも「賞味期限」があって、ウェブ制作の仕事もその期限が迫っているということです。特に高単価案件は今後どんどん減っていくでしょう。
――なるほど。何百万何千万の案件は取りづらくなっていくと。
枌谷さん:私はそう考えています。それに、社員の職業寿命という意味でも、いま転換したほうがいいと思っているんです。もちろんデザイナーもエンジニアも働き方はいろいろあるので、職種で語るのは主語が大きすぎるんですけど。
ただウチに関して言えば、価格が低いウェブサイトをたくさん作るより、1つ1つじっくり頭を使って考えて、本当に価値ある提案をしていける人材を育てていきたい。
要は、同じ努力をするならIllustratorやFigmaの細かい使い方を学ぶより、そういうコンサル的な思考を磨くのに時間と労力をかけていった方がいいと思うんですよ。その方が市場価値の高い人材になれる。
――これからの時代はいわゆる作業的なスキルよりも、発想力や決断力が必要になってくるわけですね。
枌谷さん:そう思います。もちろん実際にPCに向かってデザインするスキルは今後も必要なんですが、それより「このデザインが本当に適しているのか」をジャッジする能力が重要で。
つまり「いま作っているデザインがクライアントやユーザーにちゃんと価値を与えられるものなのか」「課題を解決できるものなのか」を判断する審美眼が求められるようになっていくと思います。
――ちなみにそちらの方向なら、まだまだ市場は大きいと言うか、利益を出せる余地があるということでしょうか。
枌谷さん:「そっちの方が儲かりそうだから変わる」というわけでもないんですけどね。ただ、自分たちで「ウェブ制作会社です」と名乗っているうちは、その枠から脱却できないだろうなと思ったんです。
たとえばスニーカーを買うとなったときに、「これくらいの金額だろうな」って考えるじゃないですか。その金額をあまりに大きく超えるものは、どれだけカッコよくても買わない。
――確かにそうかもしれません。ある程度の上限はありますね。
枌谷さん:そうでしょう? 食事でもそうです。「うどんを食べよう」と思っても、それが1杯10万円だったら、どれだけ美味しそうでも食べないじゃないですか(笑)。
もちろん中には例外的な人もいると思うんですけど、数は圧倒的に少ない。そういう数少ない例外を一生懸命探すよりも、自分自身が「売るもの」を変えていく必要があるなと思ったんです。
――なるほど。ちなみにこの移行はいつ頃までに完了される予定なんですか?
枌谷さん:2022年の中盤にこういうアイデアが出始めて、23年に計画を立てて、27年中には終わらせようとしています。あと2〜3年で完了という感じです。
――会社がそういった大きな転換期を迎える中で、枌谷さんご自身の働き方と言うか、ポジション的なものも変わっていくんでしょうか。客観的に見ていると、現状は枌谷さんがいろいろな発信をすることで集客に繋げているのかな、と思っていたのですけれど。
枌谷さん:確かに現状はそういう感じですけれど、昔よりはだいぶ影響度が低くなってきていると思います。今後はもっと低くしていきたいと思っていますし。
――意図的にそうしていくということなんですね。ちなみにそれはなぜですか?
枌谷さん:やっぱり私がずっといるわけじゃないし、どんどん若い人に主役になっていってもらいたいと思っているので。というか今でも、実務にはほとんど関わってないんですよ。もう私がいなくても会社の業務は回る状態でして。
つまり社内的には既に私の影響度、あるいは依存度は低くなっているんです。あとは外からの見え方だけなんですよね。
――そうなんですね。てっきり枌谷さんがバリバリ営業やディレクションをされているのかなと。
枌谷さん:いえいえ、もう全くしてないです。面接も一次面接しか出ませんしね。そういう意味では、今のポジション的には「広報」みたいな役割なのかもしれない。
――ああ、なるほど。会社のことやサービスのことを発信する人、というか。
枌谷さん:そう言われるとちょっと違うんだけど(笑)。敢えて説明するなら広報的な動きをしていると言うだけで、広報活動をメインでやっているという実感はないんです。
私は皆さんが思ってるほど戦略的じゃないんですよ(笑)。割と気の赴くままにやっているだけで。
――そうなんですか? ビジネスや会社のことにしっかりコミットされている印象ですけれど。
枌谷さん:もちろんそうなんですが、それは実は順番が逆なんですよね。そもそも自分が一番コミットしているのが会社やビジネスのことなので、気の赴くままに発信すれば内容は自然にそういう方向になる、というだけで。
それも「こういう発信をすればこういうリターンがあるだろう」なんて考えてやってなくて。そういう意味の戦略はほとんどないんです。
――経営者になる前からそういうタイプだったんでしょうか。論理的に戦略を立てて…というより、どちらかというと自分の興味関心に従うというか。
枌谷さん:どうなんでしょうね。もちろん年齢を重ねる中で変化はしていると思いますけど。でも「過剰に演出されたもの」が年々嫌になっているんですよ(笑)。
デザイナーになりたての頃は、やっぱりビジュアルリッチにされたものに憧れたりもしたんですけど、だんだん「そういうのダサいな」と思うようになっちゃって。
――へぇ、なぜそういう変化が起こったんでしょう。
枌谷さん:自分の役割が変わったからかもしれません。あとは時代もあるんじゃないでしょうか。SNSの時代になってからは、そういう演出された広告的なものより、リアリティのあるものの方がウケるようになったでしょう? その流れに私自身も共感したんだと思います。
――カッコつけて見せる、みたいなことが嫌になった感じですか。
枌谷さん:そうそう。「カッコつけて見せること」をカッコ悪く感じるようになった(笑)。逆に言えば、「カッコつけないことがカッコいい」って感じです。
――なるほどなるほど。確かに枌谷さんの発信って、自然体ですもんね。ちなみにお子さんの頃はどんな子どもでした? スポーツとかにハマっていたタイプでしたか。
枌谷さん:そういうのは全く興味なかったですね(笑)。いわゆるフィジカル的な楽しさってのは全然感じないタイプでした。それよりもなんていうんだろう、データベース的なものが好きでした。
――データベース?
枌谷さん:たとえば、ガンダムみたいなものでも、ストーリーを楽しむだけじゃなくて、その裏にある系譜みたいなものに興味が湧くわけですよ。
――誰の子どもが誰で、とか、どの団体がどこと仲が悪いかとか。
枌谷さん:そうそうそう(笑)。自分で登場人物の相関図を書いたりとか、あとメカの系譜とかも作ったりしてました。歴史や動物も好きだったんですけど、それも同じ理由です。家系図をどんどん辿っていくとか、動物の「◯◯目◯◯科」みたいなものを作っていくとか。
そういうのが、パズルを埋めていく快感があって楽しかったんです。今思えば、デザイナー時代に作っていたデザインポータルサイトなんかも同じ感覚だったのかもしれない。
――2000年代に運営されていたサイトですよね。世界中からいいサイトを集めてきて、ギャラリー的に見せるもの。
枌谷さん:そうです。毎朝世界中のポータルサイトを10個くらいチェックして、更新されていたら実際のサイトを見に行ってっていうのを延々とやってました。ちゃんと1つ1つレビューして、「ベルギーの◯◯ってクリエイティブスタジオが…」って説明も書いて。
――すごいなぁ。そのサイトは今の枌谷さんの発信のように、やっぱりたくさんの人に見てもらえたんですか?
枌谷さん:当時の同僚が見てくれたり、コアなファンはついてくれてましたけど、今と比べればとても小さな範囲でした。そもそもSNSがなかったですしね。
今のような感じになり始めたのは2012年くらいですかね。Facebookを本格的にやり始めて、別で書いていたブログをそこで紹介するようになって。少しずつ知り合いから「いいね」がもらえたりシェアしてもらえるようになって、グノシーとかはてなブックマークでもヒットするようになっていった感じです。
――ふーむ、やはりSNSの登場で状況が大きく変わった感じなんですね。
枌谷さん:そうだと思います。というのもSNS以前って、ブログを書いても「ブログ書いたから見て」って言う場がなかったんですよ。そういう場ができたことで、伝播する範囲は一気に広くなったと思いますね。リアクションが来るのも面白かったですし。
――SNSの話題になってきたので、ここからはソーシャルセリングについてお聞きしていきたいと思います。基本的にこのインタビューでは「どのようにSNSを使ってビジネスに繋げているか」「どうやったらフォロワーが増やせるか」というような質問をすることが多いんですが、もしかして枌谷さん、そのあたりも戦略的ではないんですか?
枌谷さん:そうですねぇ(笑)。SNSに限らずブログもそうなんですけど、そもそも私は「読む人のために」って気持ちがそこまで強いわけじゃないんですよ。どちらかというと自分の思考を整理するために書いている。ついでに皆さんにも見てもらおうかな、というくらいで。
――自分の思考を整理するため、ですか。
枌谷さん:もっと言えば「このテーマについて自分で喋れるようになるため」ですね。自信を持って喋れるようになりたいと思ったことについて勉強して、それを整理するために文章化しているだけなんです。
もちろん「こういうことを書いたらみんな喜ぶだろうな」とか「共感してくれるだろうな」って気持ちがないわけじゃないですけど、あっても3割くらいかな。残りの7割はやっぱり「自分が喋れるようになるため」で。
――なるほど。とはいえ現実として、枌谷さんのフォロワーはどんどん増えてるわけじゃないですか。どんな風にSNSを使っていたのかをお聞きできれば、読者の参考にもなると思うんですが。
枌谷さん:アドバイスさせていただきたいんですが、正直よくわかんないんですよね(笑)。当時は今みたいに「Xの伸ばし方」みたいな情報もなかったし、ただただ続けていただけで。
もちろん「ああ、箇条書きで書くと反応は伸びるんだな」みたいに、体験から得るものはありましたけど。そういう自分なりのチューニングは多少しつつ、基本的には自分のやりたいようにやっていました。
――そうなんですね。とはいえ、どこかのタイミングでググっとフォロワーが増えることになるわけですよね。
枌谷さん:それで言うとやはりコロナ期ですよね。1年で3万人くらいフォロワーが増えました。
――3万人! それはすごいですね。コロナ期になってから発信内容を変えたわけでもないんですか。
枌谷さん:特には変えてないですね。単純に皆がコロナで家に籠もる生活になって、SNSのアクティブ率がめちゃくちゃ上がったんだと思います。
――なるほどなぁ。ちなみに枌谷さんはブログやnoteなども精力的に更新されている印象です。SNSよりそういった長文メディアの方が主戦場なのでしょうか?
枌谷さん:仰る通りです。私の中でXは本当におまけみたいなもので、やっぱり長文の方が好きなんですよね。
――ちなみに1日何時間くらい書くんですか?
枌谷さん:毎日は書けないんで、隙間時間にちょっとずつって感じです。だからよく「1つの記事を書くのにどれくらいかけているんですか?」って聞かれるんですけど、わかんないんですよね。隙間時間にチョコチョコ書いて、納得いく出来になったら公開するって感じなので。
――いわゆるオウンドメディアのように、「いついつまでに◯記事は絶対公開」みたいな運用ではないと。
枌谷さん:そうなんです。もちろん、クライアントさんからオウンドメディア運用の相談をされたら、ちゃんと編集体制を作って計画立ててやった方がいいですよ、とは言いますけど(笑)。
――確かに、「枌谷さんだからできるやり方」なのかもしれませんね。
枌谷さん:そうそう、私のやり方は再現性がないんです。でも、かと言ってカッチリした執筆計画に沿って書いた方がいいのかというと、それも違うと思うんです。客観的に考えても、私という属人性を最大限活用した方が良いコンテンツができる。
だから「1記事の重み」という意味で言えば、ヒットはいらないからホームランを打つことだけに専念する感じです。「コンテンツ戦略」があるとしたらそれくらいで。
――確かに、ホームランを連打されている印象がありますもんね。
枌谷さん:何をもってホームランとするのか、という話もありますけどね。ウチは法人向けのビジネスなので、言ってしまえば一般の方に読んでもらう必要はないわけですよ。
そういう意味では1週間で1万PVいったらホームランかな、くらいの基準値でやっています。
――なるほど〜。逆に言えば、「ホームランにならなそうな記事は出さない」わけですか。
枌谷さん:どちらかというと、自分の本当に書きたい内容の記事を、いかにホームランに仕上げていくか、という視点ですね。だから推敲というか、部分的に書き直したり調整したりっていう作業にものすごく時間をかけてます。
それを隙間時間にちょこちょこやっているので、初稿を書いてから公開まで年単位でかかることが多いんです。実際、先週出した記事はもともと1年以上前に書いたものですし。
――へぇ〜、なるほど。聞けば聞くほど「枌谷さんだからできる」発信のように感じます。その上で、敢えて読者さんにアドバイスをいただけないでしょうか。たとえば「急に会社のSNS担当にされちゃった!どうしよう!」みたいな方とかに。
枌谷さん:なるほど。でもなぁ…私の体感だと「これさえやっておけば必ずうまくいく」っていうのは、ありそうでないんですよ。
その上で敢えて言うなら…「裏をかく」ってことじゃないですかね。
――裏をかく?
枌谷さん:そう。皆がやっていることを真似しても埋もれちゃうし、流行に乗っても長続きしない。だからもし自分が何らかの商材のSNS担当になったら、業界とか競合がやっていないことをやるべきだと思います。
それでバズらなくても、あるいはフォロワーが一気に増えなくても、身近な業界の人や顧客は意外と見ていたりするんです。そういう層に刺さっていれば、記憶に残ってくれると思うんで。
――なるほど! そこに刺さる投稿にするためにも、ほかのマネをしてはいけないと。
枌谷さん:そうですね。他を真似るっていうのは一番よくない気がする。一時的にフォロワーは増えるかもしれないけど、ビジネス活用っていう観点では全然良くない。
というかSNSこそ「他人がやっていないことをテストする場」にした方がいいんですよ。そうじゃないとわざわざ工数をかけてやるものじゃないと思いますね。
――他の真似をしないことで、ソーシャルセリング、つまりSNSを介してのビジネスを実現していくと。
枌谷さん:そうですね。とはいえ、私も今までたくさんSNSで成功されている人に会ってきてますけど、「売るためにSNSをやる」って発想は皆さん持ってないと思います。
どちらかというと、業界とか同業者に知見を提供したいとか、どうしてもこの考え方を伝えたいとか、そういう感情でやっている人が成功している気がします。「こういう記事を書いたらきっと問い合わせが来るだろう」みたいな狙いはないと思うんです。
――そうなんですか。…そうか、それって枌谷さんの「そんなに戦略的にやっていない」という話とも通じますね。
枌谷さん:そうかもしれませんね。だから「この1記事で◯件問い合わせを」みたいなことじゃなくて、長い期間をかけてあれこれ発信していく、その全体を通じて好印象を持ってもらう、みたいな観点。1記事あたりの生産性効率を求めすぎるのはよくないんじゃないかなと私は思います。
――なるほど! 大変参考になりました。本日はベイジの枌谷さんにお話をお聞きしました。ありがとうございました!
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