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ソーシャルセリング実践例 高井伸【B2Bマーケター】さん

高井伸さんとは?

――今回はB2Bマーケターの高井伸さんにお話を伺いたいと思います。よろしくお願い致します!

 

高井さん:よろしくお願いします。

 

 

――高井さんと言えば、Saasベンダー株式会社インターパークの取締役COOを務められていたわけですが、昨年終わりに退任されたんだとか。

 

高井さん:そうなんです。その後1人で新会社を立ち上げまして、現在はB2Bマーケティング支援のお仕事をぼちぼちやらせてもらっています。

 

――その新会社の名前がまたユニークなんですよね。

 

高井さん:社名は「マーケター高井がすべて担当してB2Bマーケティングを支援する株式会社」といいます(笑)。読んで字のごとく、僕がすべてを担当するB2Bマーケティング支援会社です。

 

――面白いし、わかりやすいです(笑)。具体的にはどんな支援をされているんでしょう。

 

高井さん:クライアントさんによって様々ですが、いわゆる「顧問業」という感じではないですね。

いわゆる上流工程の予算組み、KPIや目標設計、マーケティング全体の戦略戦術の策定もあるのですが、インサイドセールスやMA施策の実施、広告運用やコンテンツ作成、イベント運営、SNS運用、広報的な仕事まで、実際に現場で手を動かすアプトプットも多いですね。

 

――外部の相談役と言うより、企業のメンバーとして実務にあたるイメージですか?

 

高井さん:そういう感じです。僕は「いつでも着脱できるジョイント形式のパートナー」と言ったりするんですけど。外注と雇用の中間くらいにいるイメージです。

 

――なるほど。クライアントさんはどういう業種が多いんですか?

 

高井さん:皆さん僕のキャリアを見てご相談くださるので、やっぱりSaaS絡みの案件が多くなりますよね。あとはコーチングや教育プログラムの会社さんとかも最近は多いですね。

いずれにせよ無形商材ですね。何かを製造して売ろう、っていう企業さんは「よし、高井に頼もう!」とはならないはずなので(笑)。

 

 

――なるほど(笑)。会社規模で言うとやはり大きな企業が多いんでしょうか。

 

高井さん:ええ。7割くらいが上場企業や大企業ですね。残り3割は、投資ラウンドで言うとシード、シリーズA、シリーズBくらいまで。いわゆる「マーケティングについてだいたい全部知っている人」が欲しいゾーン。

 

――マーケについての幅広い知識がある人、ということですか?

 

高井さん:そうですね。シリーズCとかDになってくるともっと専門性の高いマーケターが求められるんですが、僕がマッチするのはその前段階。

なのでスタートアップの初期段階か、大企業の新規事業立ち上げや、ビジデブフェーズでお声がけ頂くことが多いですね。

マーケティングについて満遍なくいろいろ知っててあれこれ教えてくれる、手も動かせる。つまり僕のような人間が欲しいゾーン。

 

――なるほど。しかも高井さんには経営経験やサービス立ち上げ、グロースなどの経験もあるわけで、そういう意味でも「満遍なく知っている」わけですもんね。

 

高井さん:まあ、「高井は何ができるの?」って聞かれたら、正直「いや、別に何もできません」って感じなんですけど(笑)。ただいま仰っていただいたように会社運営の1から10まで経験してきたので、体験の蓄積はかなりあります。

インターパークでは自社プロダクトをつくって回してましたし、なんだかんだ30社さんくらいマーケティングのコンサルもしてきたので、プロダクト推進で何がうまくいって、何がうまくいかなかったのか、いろんなジャンルの成功失敗パターンはだいたい頭に入っているんですよね。

特に失敗パターンは再現するので、その辺のノウハウは役に立ちますよね。

 

――いや、説得力がすごいですね。だからこそ、「特定の課題に対して答えを出す」というより、「まず全体の設計が必要」という企業にマッチすると。

 

高井さん:はい。そういうコンセプトですね。広告運用もSEOも、あるいはイベント施策も、単体の課題解決なら高井より詳しい人はいっぱいいるわけで。僕の強みはそこじゃなく、長い人生経験の中で経験してきたこと自体にあるというか。

 

――長い人生経験という意味では、そもそも高井さんって若い頃はどんなお仕事をされていたんですか?

 

高井さん:僕ね、実はテレビ業界出身なんですよ。

 

――えっ、そうなんですか?

 

高井さん:ええ。大学生の頃にテレビの制作会社でバイトし始めて、そのまま就職してディレクターになったんですよね。同じような制作会社を3社渡り歩きながら、バラエティから経済番組までいろいろ作ってました。

 

 

――へええ、そこからなぜSaaSベンダーに繋がるんでしょう。

 

高井さん:まあ、話すと長いんですけど(笑)。元々起業願望はあったんですよね。で、たまたまテレビ番組の取材先の社長さんと仲良くなる機会があって「会社やらないか」と声をかけられたんですよね。

で、「社長か。面白そうだな」とは思ったんですけど、ちょっと待てよと。同じ社長なら自分で起業してやりたい事業やった方がよくないか? その方がお金も借りやすいだろうし、って。

 

――ああ、確かに。

 

高井さん:それで結局その話はお断りして、自分で起業したんです。まあ、その会社はスタート3ヶ月で資金ショートして大変だったんですけど(笑)。

 

――なんと(笑)。ちなみにどんな事業だったんですか?

 

高井さん:飲食店の予約代行サービスですね。飲食店とお客さんをマッチングするサイトで、「今週の金曜日に30人の飲み会をやりたい!」ってお客さんが言うと、「ここならできますよ」って飲食店をキュレーションしてご案内するっていう。

 

――へえ、すごくニーズありそうですけど。ちなみにキャッシュポイントは?

 

高井さん:飲食店登録は無料、もちろん会員さんも利用無料、マッチングして飲食店でお金が使われたら売上の15%をもらう、という形です。30人の飲み会で30万円だったら、4万5,000円ウチに入る。

 

――なるほど。でも3ヶ月で資金ショートしてしまったと。

 

高井さん:ビジネスモデルとしては今でも悪くないと思ってるんですけどね。それこそ営業始めて早々に70〜80店舗開拓できたんで、ニーズもあったわけだし。

ただこれ、如何せんキャッシュポイントが遠いんですよね。だから資金力がないとすぐに破綻しちゃうんです。当時ウチにあったのは500万円くらいだったから、まあ言うなれば「瞬殺」ですよね(笑)。

 

 

――笑。つまり、大企業向きのビジネスだったわけですね。

 

高井さん:そうそう。それでそのサービスは一旦諦めて、そこからは事業会社の営業コンサルみたいな仕事をするようになりました。コンサルって言っても、営業も自分でやるスタイルですけど。

 

――へえ、たとえばどんなものを営業したんですか?

 

高井さん:MEOとか顧客管理システムとか、いろいろやりましたね。中でも印象深いのはやっぱりグルーポンかな。2010年代前半、クーポンの共同購入がすごく流行っていたんですよね。複数人で商品を購入することで1人あたりの負担がすごく安くなるっていう。

 

――ありましたね! ニュースで炎上したりもしてましたけど。

 

高井さん:ブームは短かったですけど、あの盛り上がりは本当にすごくて。1回ディール回したら10秒で100万円とか売れちゃうわけですよ。それで僕の手数料として15万円くらい入ってくるわけです。10秒で15万円ですから、これはアドレナリン出ます(笑)。

 

――すごいなあ(笑)。でも、ブームがあったのは確かでも、成果を出せたのは高井さんの営業力のおかげなのでは。

 

高井さん:いやいや、誰でも売れます。当時から僕は「大学生でも売れる仕組みづくり」をポリシーにしてて、実際クーポン事業についても割と早いタイミングで新卒の子たちに営業してもらってました。

 

――つまり、キャリアの浅い方でも売れる仕組みを作ったってことですか?

 

高井さん:そうそう。と言っても別に特別なことをしたわけじゃなくて、飛び込みで営業に行って、5分で明確な費用対効果を説明して、「Yes or No」を聞くだけです。簡単でしょ?

逆に言えば、一番重要なのはそういう簡単な営業で売れるような商品やサービス、つまりトレンドをいかに早く掴むかってことなんですよ。

 

 

――なるほどなあ。ちなみに、その流れからなぜインターパークに?

 

高井さん:クライアントの1つだったんです。営業を手伝ったり、別のクライアントの会社と合併があったり、諸々経て、2015年に常勤役員としてCOOジョインすることになったって感じですね。

サスケっていうMAツールとか、ノーコードツール、050電話アプリなんかのプロダクトを3つ管掌してました。

最初は数名だったんですが、50名くらいの規模の会社になったので、そろそろ新陳代謝が必要かなと。タイミングを感じて昨年退任したって感じですね。

 

――なるほど、それで「マーケター高井がすべて担当してB2Bマーケティングを支援する株式会社」を起ち上げたというわけですね。その新会社も、既に半年先までスケジュールが埋まっているくらい絶好調なんだとか。

 

高井さん:まあ、1年目のご依頼は半分御祝儀みたいなものだと思ってます。

それに正直、この仕事って、もって2〜3年かなと思っているんですよね。あ、もちろん需要がある限りは、クライアントさんの為に身を粉にして全身全霊で仕事はしますよ(笑)。

 

――え!? 2〜3年??

 

高井さん:ええ。今はまだ僕の経験値に価値があるんでしょうけど、マーケティング領域は流行り廃りも早いし、2〜3年で僕も淘汰対象になっていくだろうなと思ってますね。

でもこれポジティブな話でして、自分の需要が減るとすれば、自分の使える時間は増えるので新しいことにチャレンジできるようになりますよね。

そうなったら新しいプロダクトを立ち上げたり、またチームで仕事するような会社を立ち上げたり、ラーメン屋さんやったりしようかなと(笑)。

 

 

――ラーメン屋さん!

 

高井さん:そうなんです。僕、マーケティングの究極は、「うまいラーメン屋さん」だと思ってて。

うまいラーメンという最高のプロダクトを出して、対価としてお金とリスペクトがもらえる。お互い感謝に包まれながらまた再来店してもらえる。これは最高のCRMで、最強のマーケティングだなと思ってるんですよね。

そしてここがまた面白いところなんですけど、そうやって別事業を始めることで、一度淘汰された僕の価値が復活するんですよ。……という妄想です(笑)。

 

――あ、そうか! SaaSベンダーからラーメン屋さんに転身した経営者・マーケターなんていませんもんね。

 

高井さん:そういうことです。面白いですよねえ。(妄想)

 

 

ソーシャルセリングについて

――ではここからは高井さんのSNS活用、ソーシャルセリングについてお聞きしたいと思います。高井さんと言えば、インターパーク時代にバズっていた印象があるのですが。

 

高井さん:3年前くらいは確かにちょっとバズってましたね。その頃はnoteでB2BのマーケティングTipsをガンガン書いて、それをTwitterで拡散していて。それが当たった感じです。

 

――なるほど。フォロワー1万人を超えたのもその時期ですか?

 

高井さん:そうですね。Twitterを本格的に始めて1年かからずに1万人いきましたね。

 

――ちなみに、その頃のモチベーションって何だったんですか?

 

高井さん:うーん、まあ当時はSaaSベンダーの経営者という立場でやっていたので、営業目的ではありましたけど。

でも厳密に言えば、僕がTwitterで醸成しようとしていたのって、その下の層なんですよ。ブランディングの「土台」というか。

 

 

――ブランディングの土台?

 

高井さん:つまり、自社プロダクトであるMAツールを直接的にPRするんじゃなくて、「なんかいい感じのマーケターだな」というイメージを持ってもらう。それが土台で、プロダクトへの興味関心はその上に乗っかるものというか。

 

――なるほど! ちなみに、具体的にはどんなイメージ醸成をしたんですか?

 

高井さん:まあ、シンプルに言えば「経営経験のあるマーケのスペシャリスト」って感じですよね。少なくとも「この人超すげえ!」っていうポジションは狙っていなかったし、実際そうは見られていなかったと思います。

 

――でも結果、しっかりバズって土台は作れたと。サスケを始めとしたプロダクトのブランディングが成功したのも、SNSの功績だと考えますか?

 

高井さん:もちろんSNSが全てではないですけど、ひとつの貢献要素だったとは思います。

数社しかいなかったサスケの導入企業が、結果1000社を超える社数まで伸ばすことができました。ARR(年次経常収益)も数十倍、数億円規模になっています。チームメンバーの頑張りに0.1%くらいは私のSNSも貢献できてるかもしれませんね(笑)。

 

――なるほど。そんな高井さんにソーシャルセリング、SNSを使った営業についてアドバイスをいただきたいんですが。

 

高井さん:そうですねぇ。今の時代の空気的な話をすると、「お願いですから買ってください」「いいものですから買ってください」はもはや響かないんですよね。そういう意味で重要なのは「社会課題との接続」だと思います。

 

 

――社会課題との接続、ですか。

 

高井さん:そう。「このサービスがあると世の中めっちゃ良くなるじゃん」とか、「この思想・世界観めちゃくちゃ素敵」とか、そういうイメージをブランディングレイヤーでできるのがSNSだと思うんです。

マーケティングやセールスはもちろん別個でやる必要はありますけど、SNSは社会課題に接続した思想や世界観を伝えていくものとして使うと。

 

――ああ、つまりSNSで直接的なマーケやセールスをするわけではないと。

 

高井さん:そういうことです。で、社会課題にきちんと接続した発信やコミュニケーションができていれば、自然と視座の高い人も集まってきます。

そういう人たちと一緒にコミュニティやイベントを組み上げると、今度はそこに参加したい人たちが集まってくる。

これを続けていると、自然と強いブランドができていくんじゃないですかね。

 

――なるほど。すごく面白いです。

 

高井さん:しかもこれは再現性があるんです。1つ成功させれば、そのロジックは何度でも横展開できる。そういう意味でもこのやり方がオススメですね。

あとはやっぱり、先ほども言った「トレンドをいかに掴むか」ですよね。グルーポンの話もそうだし、僕がTwitterでバズった話もそう。結局はトレンドを掴んで、その波に乗っただけなんです。

 

――逆に、「自分がトレンドを作り出すんだ!」というような考え方は……

 

高井さん:成功確率か、リターンの大きさをとるかのトレードオフだとは思うんですが、世の中のトレンドをつくるには、それなりの力と器と運も必要になるので、ハードシングスは覚悟したほうがいいかもですね。

私のような小物は、トレンドを掴むことにフォーカスして成功確率を細かく引き上げていく戦略をとっております(笑)。

 

 

――ちなみに先ほど「視座の高い人たちと繋がる」という話がありましたが、何かコツってありますか?

 

高井さん:そうですね。たとえばレベル1の人がレベル10の人に「一緒にやりましょう!」って言っても、レベル10の人からすると「それこっちに何のメリットがあるの?」って話になってしまう。

でも、レベル2とか3くらいの人だったら、レベル1の人の話も多少は聞いてくれます。だから自分より「1.5レベル上」くらいの人にどんどんアプローチするのがいいと思いますね。

で、それをコツコツやっていくと、気がつくと自分自身がレベル10になっていると。

 

――なるほど! いきなりはるか上を目指さず、「ちょっと上」を目指すわけですね。

 

高井さん:まあ、とはいえ人間同士のやり取りなので、想定通りにいかない部分も多々あると思いますけどね。

SNSの活用法についても、やっぱりみんな「仕組み」を知りたがりますけど、むしろ僕は最近「仕組み化できないもの」こそがすごいと思っていて。

 

――というと?

 

高井さん:本当にすごいものって仕組み化できないんです。大谷翔平とかイチローを仕組み化しようと思ってもできないでしょ? 我々がすごいと思うものほど仕組み化が難しいわけです。

で、仕組み化できないってことは、希少価値が出ますよね。そして希少価値は当然価格に反映されていく。ダイヤモンドが高いのは、希少価値が高いからですよね。どこにでもある石だったらこんなに高くなっていない。

 

――そうか、仕組み化できないから価格も高くなると。それで言えば高井さんの今の会社がやっているのも「超属人的支援」ですもんね。

 

高井さん:もちろん商売人ですからそこも重要なんですけど。ただ本当のことを言うと、僕の興味はお金よりも生き方に移ってきていて。

 

 

――生き方、ですか。

 

高井さん:ちょっと大袈裟な話になってしまうんですが、資本主義って「外部化」「自動化」「仕組み化」の世界なんですよね。それを追求しすぎると、「搾取」が大きくなっていくので最終的には破綻すると思っていて。

だからこそ、「外部化」「自動化」「仕組み化」をやめてみたらどうなるんだろう、という興味が湧いて。いまやってる会社はその実験でもあるんです。

 

――つまり、資本主義をやめる、ということですか?

 

高井さん:世界をそう作り変える、みたいな壮大な話ではないですが、できる範囲でとりあえず自分の会社で実験してみようかなと。

全部の業務の担当を僕がやる、つまりこれって「自給自足」ですよね。自分の頭と手足だけでやるビジネス。言ってみれば私のなかでは、手工芸、狩り、農業と同じ。手作業のメタファーとして今の仕事をやっています。

 

――ははぁ、なるほど。

 

高井さん:ま、とはいえ僕はインターネットも使うし、会計業務なんかはほぼ自動化してしまっている。チームをつくってマーケティングも沢山している。つまり自己矛盾を抱えているわけで、実際に完全な自給自足を実現できるとも思ってないんです。

ただ、やっぱり「ただ稼ぐ」だけじゃなくて、少しずつでも意味のあることをしていきたい。会社経営や各社への支援を通じて、そう思うようになってきたんですよね。

あと今、私42歳ですけど、この年齢になるとマネジメントとか、人を使うことだけうまくなりがちじゃないですか。そういう分野よりもまだまだ個としてのスキルを伸ばす時期だとも感じていて、80歳くらいまでマーケティングの仕事をしていたいなというまたまた自己矛盾もあります(笑)。

 

――なるほど。そしてその中にはラーメン作りもあるかもしれない、と(笑)。

 

高井さん:そうかもしれません(笑)。

 

――高井さんのラーメン屋、楽しみにしています。本日は貴重なお話ありがとうございました!

 

高井さん:こちらこそありがとうございました!

 

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