著者:柳澤大介(株式会社マイノリティ代表取締役)キーエンス・メルペイ・スマートニュースを経て、2021年2月にBtoB営業・マーケティングコンサルティング会社を創業。現在は大手〜中小企業の営業DX支援に携わりながら、Claude等の生成AIを日常的な業務に統合活用している。
この記事でわかること
- 9割が失注する法人営業で失注データが資産になる理由と、失注理由が価格に偏る3つの原因
- 受注10件の分解から始める失注分析の5ステップと、受注理由1位が対応スピードだった実例
- BANTに業種特有の負け筋を加えた10区分の失注理由と、そのまま使える記録シート
- 評価を記入の有無と当日入力に絞る運用ルールと、15分ヒアリングで聞く6つの質問
- 再提案時期を記録するキーエンス流の仕組みと、毎月の受注の30%を過去の失注から生む方法
目次
商談単価が高い法人営業で、マーケティングによって商談の数を増やしていくと、受注率はだいたい10%前後に落ち着きます。裏を返せば、商談の9割は失注しているということです。
この9割を単なる負けとして片づけるか、次の受注につながるデータとして蓄積するかで、営業組織の売上は大きく変わります。
私はキーエンスで失注データの考え方を学び、現在は株式会社マイノリティの代表として、年商数億〜数十億円規模の企業の営業支援を行っています。
本記事では、その経験と支援先での実例をもとに、失注分析の手順から、失注理由を正直に記録してもらう運用の工夫、失注データを売上に変える再アプローチの方法までを解説します。
※本記事でキーエンスの考え方として紹介している内容は、私がキーエンスの完全子会社である株式会社イプロスに在籍していた当時の経験にもとづきます。読みやすさを優先し、本文ではキーエンスと記載しています。4章の5ステップは、この考え方をベースに、現在の支援先での実践を加えて整理したものです。
失注分析とは、受注に至らなかった商談について、なぜ選ばれなかったのかを記録・分類し、営業活動の改善や再提案に活かす取り組みです。
ポイントは、分析して終わりにしないことです。原因を特定したら営業プロセスや提案内容を見直し、条件が整ったタイミングで同じ顧客にもう一度提案する。ここまでつなげて、はじめて失注分析は売上に効いてきます。
失注と似た言葉に、逸注(いっちゅう)があります。
失注は商談を進めた結果として受注できなかったこと、逸注は、問い合わせへの対応の遅れなどで、商談になる前に受注の機会を逃すことを指して使われることが多い言葉です。ただし、失注とほぼ同じ意味で使う会社もあり、定義には幅があります。
実務で大切なのは、どこまでを失注として記録するかを社内で揃えることです。たとえば、提案したまま返事がない案件を失注に含めるかどうか。ここが担当者ごとにバラバラだと、集計した数字を比較できません。
私は、返事がないまま消えた案件も、自然消滅という区分で記録することをおすすめしています。
紹介案件だけで商談をしていると、受注率は高く見えます。
しかし、マーケティングで商談の量を増やしていくと、受注率は10%前後に収束していきます。
商談単価が300万円以上のBtoBで、マーケティング経由で毎月100〜200件の商談を回している会社であれば、ほぼこの水準です。
つまり、営業活動の結果として手元に残るデータの9割は、失注に関するものです。これを捨ててしまうのは、営業組織にとって最ももったいないことです。
経営学者のピーター・ドラッカーは、著書『明日を支配するもの』の中で、変化はつねに非顧客の世界で始まると述べ、自分たちにとっての非顧客がなぜ非顧客のままでいるのかを知る者は少ないと指摘しています。
失注した顧客は、まさに自社を選ばなかった非顧客です。その理由を記録し続けることは、市場の変化をいち早くつかむことにもつながります。
出典:P.F.ドラッカー著、上田惇生訳『明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命』ダイヤモンド社、1999年
失注分析を続けると、主に3つのことが見えてきます。
私はこの3つ目こそ、失注分析の最も大きな価値だと考えています。失注理由と時期を記録しておけば、失注した顧客は将来の見込み客リストに変わるからです(8章で詳しく解説します)。
失注理由を集計すると、価格ばかりが並んでしまう。多くの営業組織で起きている現象です。しかし、価格が本当の理由であるケースは、多くの会社が思うより少ないのが実情です。
1つ目の原因は、顧客が本音を言わないことです。
断る側は、相手との関係を壊したくありません。提案が響かなかった、担当者の対応に不満があった、社内で優先度が下がったといった本当の理由は伝えにくいため、誰も傷つかない理由として価格を選びがちです。
顧客から聞いた理由をそのまま記録すると、失注理由は価格に集約されていきます。
2つ目の原因は、記録する営業側にもあります。
社会心理学では、うまくいったことは自分の力、うまくいかなかったことは他人や状況のせいだと考えやすい傾向を、自己奉仕バイアスと呼びます。
古くから研究されてきたテーマで、266件の研究を統合したメタ分析でも、文化による強弱の差はあるものの広く確認されています。
失注理由を担当者の自己申告だけに任せると、自分の提案の問題よりも、価格や競合といった外部の要因が選ばれやすくなります。これは誠実さの問題ではなく、多くの人に見られる傾向です。
だからこそ、個人の申告だけに頼らない仕組みが必要です。
出典:Miller, D. T., & Ross, M. (1975). Self-serving biases in the attribution of causality: Fact or fiction? Psychological Bulletin, 82(2), 213-225./Mezulis, A. H., Abramson, L. Y., Hyde, J. S., & Hankin, B. L. (2004). Is there a universal positivity bias in attributions? A meta-analytic review of individual, developmental, and cultural differences in the self-serving attributional bias. Psychological Bulletin, 130(5), 711-747.
3つ目の原因は、負けた相手を分解していないことです。価格で他社に負けたという報告を受けたら、私は必ず、その他社とは誰なのかを確認します。負けた相手は、大きく4つに分けられます。
実際には、価格で負けたという報告の実体が、相手が動かなかった、つまり現状維持に負けていたというケースが非常に多くあります。
経済学者のサミュエルソンとゼックハウザーは、人は新しい選択肢よりも、何もしないことや以前の決定を続けることを選びやすい傾向を示し、これを現状維持バイアスと名づけました。
私は、BtoBの最大の競合は他社ではなく現状維持だと考えています。
何もしないという選択に負けている案件が多いなら、打ち手は価格ですらありません。
必要なのは、今のままでいることのリスクを、顧客が自分ごととして理解できる提案です。
負けた相手を分解しておけば、値引き施策という誤った方向に進むのを防げます。
出典:Samuelson, W., & Zeckhauser, R. (1988). Status quo bias in decision making. Journal of Risk and Uncertainty, 1, 7-59.
関連記事:【BtoB営業の価格戦略】私がキーエンスで学んだ価格戦略の極意
ここからは、失注分析の具体的な進め方を5つのステップで解説します。最初のステップが失注ではなく受注の分析になっている点に、失注分析の精度を上げるコツがあります。
※この5ステップは、キーエンスで学んだ失注データの考え方(失注理由をBANTで分類し、再提案の時期とあわせて記録する)をベースに、私が現在の支援先で実践している方法を加えて整理したものです。キーエンスの仕組みそのものは、8章で詳しく紹介します。
多くの会社は失注分析から始めますが、私はおすすめしていません。
理由は2つあります。
1つは、3章で解説したとおり、失注理由には本音が出にくいこと。
もう1つは、勝因の共通項のほうが再現につながりやすく、チームも前向きに取り組めることです。負けの分析から入ると、誰のせいで負けたのかという犯人探しの空気が生まれやすくなります。
そこでまず、直近で受注した10件について、なぜ自社を選んだのかを、担当者の推測ではなく顧客の言葉で聞いてください。ある支援先で受注理由を集計したところ、次の結果になりました(件数は理由ごとの言及数)。
| 順位 | 受注理由 | 件数 |
|---|---|---|
| 1位 | 担当者の対応スピード | 7件 |
| 2位 | 導入事例が近かった | 6件 |
| 3位 | 価格 | 4件 |
| 4位 | 経営層への説明資料 | 3件 |
| 5位 | 機能 | 2件 |
この会社が強みだと考えていたのは機能と価格でしたが、機能は5項目の中で最も少なく、価格も3位にとどまりました。1位は、担当者の対応スピードだったのです。
ドラッカーは『明日を支配するもの』の中で、中心とすべきは顧客にとっての価値であると述べています。
売り手が考える強みと、顧客が評価している価値は、往々にして食い違います。勝因を顧客の言葉で把握してから失注を見ると、分析の精度が大きく変わります。
出典:P.F.ドラッカー著、上田惇生訳『明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命』ダイヤモンド社、1999年
受注率が低いという報告を受けたとき、私が最初に確認するのは、どこで落ちているかです。
| 落ちている場所 | 考えられる原因 | 見直すポイント |
|---|---|---|
| 初回の商談 | 会うべき相手を間違えている | 狙う企業や面談相手の選び方 |
| 提案の段階 | 課題の把握が浅い | ヒアリングの深さと提案内容 |
| 見積を出した後 | 決裁構造を押さえていない | 決裁者と社内の承認プロセス |
この3つは、まったく別の病気です。病気が違えば、処方箋も違います。初回で落ちているのに提案書を磨いても、成果は出ません。
まずは商談フェーズごとに失注件数を数え、問題がどこに集中しているかを特定しましょう。
次に、失注理由を区分に当てはめて記録します。
最初は直近の失注案件を3件ほど取り上げ、客先、商品、時期、理由を具体的に書き出してから、区分に当てはめてみてください。
大事なのは、どの区分にも当てはまらない理由が出てきたときに、案件ではなく区分の方を直すことです。無理やり押し込むと、データとして使えなくなります(区分の作り方は5章で解説します)。
記録がたまってきたら、軸を変えて集計します。代表的な分析軸は次のとおりです。
件数や割合で傾向をつかみ、顧客の言葉で理由を深掘りする。定量と定性を組み合わせるのがポイントです。
なお、担当者別の集計は、個人を責めるためではなく、育成やフォローが必要な場所を見つけるために使ってください。
関連記事:BtoB営業の行動量管理とは?KPI設計からマネジメント実践まで体系解説
最後に、集計で見えた課題への改善策を決めます。営業プロセスの見直し、提案資料の改善、商品へのフィードバックなど、誰が、いつまでに、何をするかまで決めておきましょう。
あわせて、失注した案件ごとに再提案の時期も決めて記録しておきます。この一手間が、失注データを売上に変える土台になります(8章で詳しく解説します)。
失注理由を分類する出発点として便利なのが、BANTです。予算(Budget)、決裁者(Authority)、ニーズ(Needs)、時期(Timeframe)の頭文字をとった、商談の確度を見極めるための枠組みで、よくある失注要因は次のように整理できます。
| BANTの軸 | よくある失注要因 | 商談中に確認したいこと |
|---|---|---|
| 予算(Budget) | 予算が足りない、価格が見合わない | 予算の有無、金額感、予算化の時期 |
| 決裁者(Authority) | 決裁者に会えていない、社内の稟議で止まった | 誰が決めるのか、承認の流れ |
| ニーズ(Needs) | 課題とのずれ、ヒアリング不足 | 解決したい課題とその優先度 |
| 時期(Timeframe) | 導入時期が合わない、検討が先送りになった | いつまでに導入したいか |
キーエンスでも、失注理由はBANTの4分類で残します。4つの軸で整理するだけでも、どこで負けているかの大まかな傾向はつかめます。
ただし、BANTの4分類だけで足りるかというと、私は足りないと考えています。業種ごとに、固有の負け筋があるからです。
たとえば食品メーカーの営業なら、規格が合わない、ロットが大きい、物流が届かない、センターフィーが重い、賞味期限の条件が合わない、棚に空きがない、といった理由で失注します。
これらをBANTに当てはめると、ほとんどがニーズ不一致に押し込まれます。ニーズ不一致が大半を占める集計表を見ても、次に何をすべきかは見えてきません。
BANTを骨格として残しつつ、業種ならではの区分で肉付けすることが、使える失注データをつくる基本です。
2026年8〜9月に私が仕組みづくりを支援したある食品製造業の会社(営業4名)では、営業メンバーへのヒアリングで出てきた言葉をそのままプルダウンの選択肢にして、失注理由を次の10区分に整理しました。
| No. | 失注理由の区分 | 対応するBANT |
|---|---|---|
| 1 | 予算・価格 | Budget |
| 2 | 決裁・社内事情 | Authority |
| 3 | ニーズ不一致 | Needs |
| 4 | 時期・タイミング | Timeframe |
| 5 | 競合に決定・切替 | - |
| 6 | 終売・棚落ち | - |
| 7 | 店舗数・売場縮小 | - |
| 8 | 先方の方針変更 | - |
| 9 | 自然消滅(返答なし) | - |
| 10 | その他 | - |
BANTの4区分を骨格に、終売・棚落ちや店舗数・売場縮小のような業界特有の負け筋を独立させています。自社版をつくるときは、現場に価格以外で落ちるパターンを聞き、出てきた言葉を言い換えずに区分名にするのがコツです。
失注分析を始めるのに、大がかりなシステムは必要ありません。次のような記録シートを表計算ソフトでつくれば十分です。
| 項目 | 記入例 | 記録する狙い |
|---|---|---|
| 案件名・顧客名 | ○○社 システム導入 | 案件を特定する |
| 業種・企業規模 | 製造業・従業員200名 | 顧客層の傾向を見る |
| 失注したフェーズ | 見積提出後 | どこで落ちたかを見る |
| 失注日・担当者 | 2026年9月・営業A | 時期・担当の傾向を見る |
| 失注理由の区分 | 時期・タイミング | 集計の軸にする |
| 顧客の言葉 | 来期の予算でなら検討できる | 本音を探る手がかりにする |
| 負けた相手 | 同業/内製/既存の継続/何もしない | 値引き以外の打ち手を探る |
| 断られ方 | はっきり断られた/自然消滅 | 失注の実態をつかむ |
| キーパーソン(面談者) | 情報システム部 部長 | 担当交代の検知に使う |
| 再提案の時期 | 2027年2月 | 再提案のアラートに使う |
なかでも、負けた相手、断られ方、キーパーソン、再提案の時期の4項目は、6章と8章で紹介する仕組みの土台になる重要な項目です。
どれだけよい区分を用意しても、営業メンバーが正直に記録しなければ、失注分析は機能しません。先ほどの食品製造業の支援先で実装した仕組みを紹介します。
失注の記録を始めようとすると、営業メンバーは必ず、この記録は結局、自分たちの評価に使われるのではないかと考えます。
この不安を放置したまま失注の件数を評価に使えば、営業は失注を書かなくなります。書かれなければ、再提案のリストもつくれません。正直に書いた人が損をする設計では、失注理由の欄は空欄か、当たり障りのない価格一色になり、仕組みは根元から枯れてしまいます。
そこで私は、運用を始める前に、評価に使うものと使わないものを隠さず先に伝えました。
| 評価に使うもの | 評価に使わないもの |
|---|---|
| 記録が書いてあるかどうか その日のうちに入力されているかどうか | 失注の件数 失注理由の中身 議事録の文章の上手い下手 |
あわせて、失注の数で評価すれば失注は書かれなくなり、再提案リストもつくれなくなる、という理由も説明しています。評価を記録の有無とスピードに絞ることで、正直に書いた人が損をしない状態をつくるのです。
失注データが消える原因として見落とされがちなのが、置き場の問題です。提案はしたけれど、受注できるかどうか数字が読めない案件。
この置き場がない会社は少なくありません。置き場がなければ、案件は担当者の頭の中にだけ残り、いつの間にか消えていきます。
私は、これこそが失注データが消える一番の原因だと考えています。
あわせて、はっきり断られた失注と、返事がないまま消えた自然消滅の比率も確認しましょう。
記録を続けてもらうには、見返りの設計も欠かせません。
支援先では、入れっぱなしにはしません、返します、と最初に約束し、貯めた記録を再提案リストとして営業メンバーに返しています。
自分が入力した失注が、提案のチャンスとして戻ってくる。この実感があってこそ、記録は続きます。
支援先への提案書では、次のロジックで投資対効果を示しました。いま失注の9割はゼロ円で消えている。この会社の場合、失注のうち約2件を再受注に変えれば、仕組みづくりへの投資を回収できる。失注データの管理は、回収の見込める投資なのです。
関連記事:トップ営業が新任マネージャーで失敗する理由|チームを壊さない型
失注理由の区分をつくるときや運用を見直すときには、営業メンバーへのヒアリングが欠かせません。私が支援先で実際に使っている、15分のアジェンダを紹介します。
ヒアリングの最初に、私は必ず、これは犯人探しではありませんと宣言します。誰が悪かったのかは一切問わず、何が起きていたのかだけを知りたい、と伝えるのです。
ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授は、対人関係のリスクをとっても安全だとチームのメンバーが共有して信じている状態を、心理的安全性と定義しました。
ある製造業の企業で51チームを対象に行われた研究では、心理的安全性が学習行動と結びつき、その学習行動が成果につながることが示されています。
失注の振り返りは、まさにチームの学習行動です。責められる不安がある場では、本当のことは出てきません。
出典:Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350-383.
宣言のあとは、次の6つの質問を順番に聞いていきます。
| No. | 質問 | 聞く狙い |
|---|---|---|
| 1 | 直近で失注した案件を3件、具体的に教えてください(客先、商品、時期、理由) | その場でBANTに当てはめ、合わなければ分類の方を直す |
| 2 | 価格で他社に負けるというとき、その他社とは誰ですか | 負けた相手を4つに分解する |
| 3 | 価格以外で失注するのは、どんなパターンですか | 業種特有の負け筋を洗い出す |
| 4 | 一度失注した商品を、後から再提案して通った経験はありますか。きっかけは何でしたか | 担当交代、棚替え、競合の値上げ、規格変更など再提案のきっかけを探す |
| 5 | キーパーソンが交代した情報は、どのように入ってきますか。年に何件くらいありますか | 交代を検知する仕組みづくりに活かす |
| 6 | 逆に、これは勝ったなと感じた商談には、どんな共通点がありますか | 勝ちパターンを言葉にする |
6つ目の質問は、必ず最後に聞いてください。失注の話で終えると場の空気が沈みますが、勝ちパターンの話で締めれば、前向きな空気でヒアリングを終えられます。
顧客に直接、失注理由を聞く場合は、角が立たない理由が返ってくる前提に立ちましょう。
なぜ他社に決めたのかを正面から聞くより、比較検討の流れや最終的な決め手を聞くほうが、本音に近づけます。
また、失注が決まった直後の売り込みは逆効果です。まずは検討してもらったことへの感謝を伝え、関係を残すことを優先してください。
関係が残っていれば、条件が変わったときに改めて声をかけられます。
ここからは、失注データを売上に変える再アプローチの仕組みを解説します。私がキーエンスで学んだ考え方がベースです。
キーエンスでは、失注したときに、失注データが取れたと捉えます。失注は単なる負けではなく、次の提案に必要な情報を手に入れた状態だという考え方です。
9割が失注する法人営業では、この発想の転換によって、営業活動の9割が次の受注の材料に変わります。
キーエンスでは、失注理由をBANTの4分類で残すと同時に、再提案すべき時期も記録します。たとえば、予算を組む時期に来てくれないと検討できないと言われたら、その会社が予算を組む時期(2月や3月など)を入力しておきます。
すると、その月が来たときに過去に失注した会社が一覧で並び、営業担当者にアラートが届きます。半年後や1年後、失注の原因がクリアされたタイミングで、ピンポイントで再提案できるわけです。
再アプローチのきっかけになる主なトリガーは、次のとおりです。
単に予算がなかった案件は、予算の時期を見計らって確実に再連絡します。機能面が理由の案件は、求められていた機能が実装されたときに提案します。接触の頻度は、半年に1回が目安です。
関連記事:【2026年最新】インサイドセールスのAI効率化マニュアル|トップ営業の型化事例を公開
数あるトリガーの中で、私が最も重視しているのがキーパーソンの交代です。食品卸との取引であれば、バイヤーの交代がこれにあたります。
前任者の判断で見送られた提案も、担当が変われば改めて検討してもらえる可能性があります。
ただし、交代の情報は待っていても入ってきません。支援先では、訪問記録の面談者欄をトリガーにして、交代の検知そのものを仕組みに組み込みました。
新規リードの受注率は、高くても30%、平均すると10%ほどです。一方、失注理由と再提案の時期を管理している失注客からの受注率は、非常に高くなります。失注の原因が解消されたタイミングを狙って提案するからです。
失注データをきちんと管理している組織では、毎月の受注の30%を過去の失注案件から獲得できる状態になります。失注分析は、これまで捨てていた9割を次の売上に変えるための仕組みです。
失注分析を続けるには、記録と集計の手間を減らすことが大切です。組織の規模に合わせて、ツールを選びましょう。
営業メンバーが数名なら、まずは表計算ソフトで十分です。5章の記録シートをつくり、失注理由の区分はプルダウンで選ぶ形にします。自由記述にすると表記がばらつき、集計できなくなるからです。
商談数が増えてきたら、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)を検討しましょう。選ぶときは、次の3点を確認してください。
特に再提案時期の通知機能は、8章で紹介した再アプローチを仕組み化するうえで欠かせません。
生成AIを活用する方法もあります。
商談の議事録や日報を読み込ませ、失注理由の候補を抽出させたり、自社の区分に当てはめさせたりする使い方です。商談で実際に交わされた言葉から理由を拾えるため、価格への偏りを補う手段にもなります。
ただし、AIの出力はあくまで候補です。最終判断は人が行い、顧客情報の扱いは社内のセキュリティルールに従ってください。
失注分析は、負けた理由を反省するためのものではなく、次の受注をつくるための仕組みです。商談の9割を占める失注を活かせるかどうかが、売上を大きく左右します。
まずは、直近の受注10件と失注3件を書き出すところから始めてみてください。
Q1. 失注分析とは何ですか?
A. 失注分析とは、受注に至らなかった商談の理由を記録・分類し、営業活動の改善と再提案に活かす取り組みです。
商談単価が高く、マーケティング経由で商談数を増やしている法人営業では、受注率は10%前後になり、商談の9割は失注します。この9割をデータとして活かせるかどうかが、営業組織の売上を左右します。
Q2. 失注分析は、何から始めればいいですか?
A. 失注ではなく、直近の受注10件を顧客の言葉で分解するところから始めてください。断る側は角が立たない理由を選ぶため、失注理由は価格に集約されがちだからです。
ある支援先では、会社が強みだと考えていた機能は最下位、価格も3位にとどまり、1位は担当者の対応スピードでした。勝因が見えてから失注を見ると、分析の精度が変わります。
Q3. 失注理由を、営業が正直に書いてくれません。どうすればいいですか?
A. 評価の設計を見直してください。失注の件数や理由の中身を評価に使えば、営業は失注を書かなくなります。私は支援先で、評価に使うのは記録が書いてあるか、その日のうちに入っているかの2つだけだと、先に線を引きます。
正直に書いた人が損をしない設計にしてはじめて、再提案リストの元になるデータが貯まります。
Q4. 失注理由の分類は、BANTの4分類で足りますか?
A. 足りません。BANTは骨格として優秀ですが、規格が合わない、ロットが大きい、物流が届かないといった業種特有の負け筋が、ニーズ不一致に押し込まれて使えないデータになります。
私は現場に価格以外で落ちるパターンを聞き、出てきた言葉をそのまま選択肢にします。支援先では、最終的に10区分になりました。
Q5. 価格で負けたという失注が多い場合、値引きすべきですか?
A. 値引きの前に、負けた相手が誰なのかを分解してください。同業、内製、既存のやり方の継続、何もしないという選択のどれに負けたのか。私の経験では、価格で負けたという報告の実体が、現状維持に負けていたというケースが非常に多くあります。
その場合、値引きは何も解決しません。BtoBの最大の競合は、他社ではなく現状維持です。
Q6. 失注データは、いつ・どのように活用すればいいですか?
A. 失注理由と再提案の時期をセットで記録し、その時期が来たら再提案に活用します。キーエンスでは、失注を失注データが取れたと捉えます。予算の時期に来てほしいと言われたら、その時期を記録しておき、その月に再提案します。
この運用が回ると、毎月の受注の30%を過去の失注案件から生み出せるようになります。
Q7. 失注した顧客には、どのくらいの頻度で再アプローチすべきですか?
A. 半年に1回が目安です。そのうえで、予算編成の時期、自社の新機能のリリース、担当者の異動、経営方針の転換といったトリガーを狙って連絡します。
なかでも私が最も重視しているのは、キーパーソンの交代です。訪問記録の面談者欄の変化などから、交代を検知できる仕組みをつくっておきましょう。
Q8. 返事がないまま自然消滅した商談も、失注として記録すべきですか?
A. 記録すべきです。私は自然消滅を、はっきり断られた失注とは別の区分として記録することをおすすめしています。
提案はしたものの数字が読めない案件の置き場がないことが、失注データが消える一番の原因になるからです。はっきり断られた失注と自然消滅の比率も、あわせて把握しておきましょう。
記事を書いたひと
株式会社マイノリティ 代表取締役
柳澤 大介
キーエンス初のインターネット事業「イプロス」では、4.3万社が参画する製造業向けプラットフォームの成長を牽引。メルペイで100名規模の営業組織を構築し、国内182万ヶ所の加盟店を開拓。スマートニュースで営業企画責任者を経て、2021年に株式会社マイノリティを創業。B2Bビジネスのマネタイズとグロースが専門。埼玉大学で「イノベーションとマーケティング講座」の講師。
■ 経歴
株式会社マイノリティ 代表取締役(2021/2〜現在)
https://minority.works/
株式会社ブランドファーマーズ・インク 代表取締役(2025/11〜現在)
https://brand-farmers.jp/
社長ラジオ株式会社 代表取締役(2026/4〜現在)
https://shachoradio.com/
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