組織が成長するとき、必ず直面する問題があります。それは「マネジメント」の壁です。優秀なプレイヤーが昇進してマネージャーになったとき、多くの組織で同じような失敗が繰り返されています。
私自身もチーム崩壊という痛い経験をし、20年近い会社員生活を通じて、良いマネージャー、悪いマネージャーの両方を目の当たりにしてきました。
今回は、私が支援してきた多くのスタートアップで見てきた「マネジメントの失敗パターン」と、それを乗り越えるために必要な考え方をお伝えします。
目次
営業組織の立ち上げ支援をしていると、本当によく目にする光景があります。トップ営業マンが初めてマネージャーになり、最初の3ヶ月は絶好調。ところが半年後には離職者が続出し、1年後にはチームが機能不全に陥っているケースです。
最近、私が支援しているスタートアップでよく見られるのが、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)した後の「マネージャー不足問題」です。資金調達して採用が進むと、新入社員のオンボーディングやチーム編成で、急にマネージャーが必要になります。でも、経験豊富なマネージャーなんてそうそう採用できません。
そこで何が起きるかというと、「じゃあ、一番成績のいい〇〇さん、来月からマネージャーね」というパターンです。スキルはまだ十分じゃないけど、ポテンシャルに期待しての抜擢。よく言えば「抜擢人事」、悪く言えば「見切り発車」です。
そして、晴れて正式なマネージャーに昇格。部下を持った新任マネージャーは何をするか。自分のやり方を、1から10まで強制的に押し付けるのです。話す内容、アプローチ方法、商談の進め方。すべて自分と同じやり方を強要します。なぜなら、それで自分は成功してきたから。
「俺はこのやり方で成果を出した。だからお前らも同じようにやれ」まさに金太郎飴。全員を自分のコピーにしようとするんです。
不思議なことに、これで成果が出るんです。最初の3〜6ヶ月くらいは。7人の部下がいたら、上位2〜3人が飛び抜けた成果を出します。チームとしては目標達成。新任マネージャーは「俺のやり方は正しかった」と確信を深めます。
でも、これには構造的な理由があります。営業チームは通常、担当する顧客規模で分かれています。SMB、Mid-market、Enterprise。新任マネージャーは、まずSMBチームを任されることが多い。そして3〜6ヶ月経つと、ハイパフォーマーはMid-marketチームに異動していきます。下から新人が入ってくるので、押し出されるように上に行くのです。
ハイパフォーマーが抜けた後、何が起きるか。チームの成績は、半年後から未達が続きます。すると新任マネージャーはどうするか。さらにマイクロマネジメントを強化し、詰めを厳しくするんです。これが悪循環の始まりです。
1年経つ頃には、決まって起きることがあります。そのチームだけ、異常に離職率が高くなる。私が見てきたケースでは、四半期に1人は必ず辞める。精神的にまいってしまい、休職する人も出てきます。
Dropboxで働いていた方のブログから、「オラオラ系の上司と縁の下の力持ち型の上司」という興味深い比較を紹介しましょう。
オラオラ系の上司: 「四半期目標の達成は必須だ」が口癖。「何でも言ってくれ」と言うが、実際は何もしない。短期的には成果が出るが、1年後には去っていく。
縁の下の力持ち型の上司: 「君たちが仕事をスムーズにできるよう支援する」と言って実行。「目標必達」とは一度も言わない。より効率的に仕事ができるようにどんどん環境を変えて、長期的に安定した成果を出す。
これはまさに私が経験してきたことと一致します。短期的な成果と長期的なチーム作りは、全く異なるアプローチが必要なのです。
| 特徴 | オラオラ系の上司 | 縁の下の力持ち型の上司 |
|---|---|---|
| 口癖 | 「四半期目標の達成は必須だ」 | 「君たちが仕事をスムーズにできるよう支援する」 |
| 部下への姿勢 | 「何でも言ってくれ」と言うが実際は何もしない | 「目標必達」とは一度も言わない |
| 成果 | 短期的には出るが1年後には去っていく | 長期的に安定した成果を出す |
| 環境改善 | 変えない | どんどん変えて効率化 |
いろいろな本を読み漁った結果、最もしっくりきたのが「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」という本の定義でした。
マネージャーの仕事は、部下の能力を最大化すること。
シンプルですが、これに尽きます。10人の部下がいれば、その10人分の能力を掛け算で引き出す。それがマネージャーの価値です。では、どうすれば部下の能力を最大化できるのでしょうか。
人が仕事において能力を発揮していないように見える時、その理由はこの2つしかありません。
ということはつまり、マネージャーがやるべきことも2つに集約されます。教育とモチベーション管理。これだけです。
実は昔の私は、「モチベーション管理なんて必要ない」と思っていました。「プロ野球選手が打席に立って『今日はモチベーション上がらないから打ちません』なんて言うか? プロなら自分でモチベーション管理しろよ」会社員だってプロなんだ。以前は本気でそう考えていたんです。
でも、いろいろな組織を見ていくうちに気づきました。モチベーションの高いチームと低いチームでは、成果が全然違う。当たり前のことなんですが、これは無視できない事実です。結局、人間は感情の生き物。モチベーションも含めてマネジメントしないと、最大のパフォーマンスは引き出せません。ならば、やるしかないのです。
部下のモチベーションを上げる方法はいろいろありますが、一番シンプルにして本質的なことは「給料を上げること」でしょう。身も蓋もない話ですが、これが一番効きます。
褒められるのも嬉しい。でも、それが給料に反映されなければ、結局は絵に描いた餅。逆に、給料が上がれば、それは会社からの明確な評価の証です。私が20代の頃は上司に飲みに連れて行ってもらうのが嬉しかったものです。でも時代は変わりました。今の若い人たちは、余計な飲み会や労いの言葉よりも給料。考えてみれば、当たり前ですよね。
ここで、私が会社員時代に痛感した、重要な理論を紹介します。「シチュエーショナルリーダーシップ」というもので、部下の成熟度によって、マネジメントスタイルを変えるという考え方です。
具体的には、部下を4つのレベルに分けます。

そして、それぞれに応じて関わり方を変えていきます。
S1レベルの部下には徹底的な指示型で、手取り足取り教える必要があります。「1日10件は最低でも電話してね」「商談ではこの順番で話してね」「資料はこのフォーマットを使ってね」細かく指示を出し、進捗を毎日確認する。いわゆるマイクロマネジメントです。
普通、マイクロマネジメントは嫌われます。でも、S1レベルの部下にとっては必要です。何をすればいいかわからない状態で「自由にやって」と言われても困るだけですから。
実は私、これで大失敗しているんです。チーム崩壊の反省から、次の職場ではメンバーとのコミュニケーションを意識的に増やしました。父親が自分の子どもに接するような、温かいマネジメントを心がけたんです。
ところが、スキルがなくてモチベーションが低いS1レベルのメンバーにも、このS3的な援助型マネジメントをしてしまった。結果、どうなったか? まったく動かなくなったんです。
「今月は目標達成のために、1日50件は電話しましょう」と伝えても、実際に電話したのは10件だけ。支援やサポートはするけど、細かく厳しく管理しない。S1レベルの人にとって、これは「甘やかし」でしかなかったのです。これが失敗でした。部下の成熟度を考えず、画一的なマネジメントをしてしまったわけです。
ここで、私が素晴らしいと思う評価制度を紹介しましょう。キーエンスの事例です。同社では社員のグレードが3から8まであります。そして面白いのが、グレードによって評価の基準が変わること。

つまり、新人は結果よりもプロセス重視。電話を何件かけたか、商談を何件やったか。そういった行動量そのものを評価します。なぜか。営業には「ラッキーパンチ」があるからです。たまたま大きな案件が決まることもある。でも、それを評価しても再現性がありません。いつか行き詰まってしまいます。
一方、ベテランは結果重視。もうやり方は身についているんだから、あとは結果を出すだけ。この考え方、シチュエーショナルリーダーシップと完全に一致しています。
組織で働く以上、避けて通れないのが「上司との関係」です。正直に告白しますと、私が会社員を辞めて起業した最大の理由は、上司との相性問題でした。40歳手前で「これ以上、代わる代わる現れる上司に対応できない」と悟り、自分で会社を作ることにしたんです。
私は20年近い会社員生活で、たくさんの上司の下で働いてきました。そして気づいたことがあります。上司は大きく「経営者気質の上司」と「サラリーマン気質の上司」2つのタイプに分かれるということ。
| 項目 | 経営者気質の上司 | サラリーマン気質の上司 |
|---|---|---|
| 仕事の目的 | 社会に価値を提供する | 自分の評価を高める |
| 意思決定 | リスクを取って挑戦 | 上からの指示を忠実に実行 |
| 部下の意見 | 異なる視点を歓迎 | ノイズとして無視 |
| 責任の取り方 | 「俺が責任を取る」 | 「指示通りやっただけ」 |
| 成果の視点 | 長期的・持続的 | 短期的・四半期ベース |
| 向いている方向 | 外側(顧客・市場) | 内側(組織・評価) |
この違いを理解できれば、上司との付き合い方が劇的に楽になります。ちなみにどちらが優れているという話ではありません。あくまでタイプの違いです。
経営者気質の上司は、こんな反応をします。「部長、そのやり方もいいですけど、こういう方法もあるんじゃないですか?」そう提案すると、目を輝かせて、「おお、それ面白いね! 詳しく聞かせて」
異なる意見や新しい視点を歓迎します。むしろ、自分と違う意見を言ってくれる部下を重宝する傾向にあります。彼らに共通していたのは、リスクを取る姿勢でした。新しいことにチャレンジし、失敗を恐れない。部下の意見にも耳を傾けます。
経営者気質の上司の真骨頂を見たのは、2020年3月のことでした。コロナで世界中がパニックになった時、私がかつて在籍していた会社で、Kさんという起業経験のある上司が営業会議でこう言い切ったんです。
「俺はリーマンショックも、⚫︎⚫︎社の経営危機も乗り越えてきた。今回も大丈夫だ。俺についてこい」
株価チャートを見せながら、過去の危機がどう回復したかを論理的に説明しました。でも、データだけではありません。最後は「勘」で決断し、そして明言したんです。「責任は俺が取る」
不確実な状況で明確な方向性を示す。データは使うけど、最後は腹をくくって決断する。そして、失敗したら自分が責任を取る覚悟を示す。これこそが経営者気質の上司の真骨頂です。部下は不安な時こそ、こういうリーダーシップを求めています。
一方、サラリーマン気質の上司の反応は正反対です。同じように提案すると、「いいから黙って言われたことやっとけよ」これが基本スタンスです。
なぜかというと、彼らは自分の目標達成にしか興味がないから。上からの指示を忠実に実行し、波風を立てずに出世することが最優先。部下の意見はノイズでしかありません。
私は某QRコード決済の会社にいたことがあります。そのときの話を例に、上記のタイプの違いを説明しましょう。
当時、営業部門の目標はQRコード決済の設置数でした。そこで営業が考えた「裏技」は、新聞配達員やヤクルトレディといった集金をする仕事の方々に個別にQRコードを持たせること。
人毎に金額を集計する必要性もあるし、これなら大量に発行できます。でも本質的じゃないですよね。新聞の購読やヤクルトの購入にQRコードがそんなに使われるとは思えません。当時は飲食店でさえQRコード決済が普及していない状況です。価値のないQRコードを発行しても意味がない。
経営者気質の上司なら「確かにそれは本末転倒だね」と理解してくれます。でもサラリーマン気質の上司は「目標は必達だ」の一点張り。
さて、仕事は何のためにするのでしょうか?
経営者気質: 社会に価値を提供するため(外側を向いている)
サラリーマン気質: 自分の評価のため(内側を向いている)
この根本的な価値観の違いが、すべての行動の差になって現れるんです。
では、新任マネージャーが同じ失敗をしないためには、どうすればいいのか。
1. 目先の成果にとらわれない
最初の3ヶ月で成果が出ても、それは一時的なもの。1年後、2年後を見据えたマネジメントを心がけるべきです。
2. メンバーの個性を認める
全員を自分のコピーにしようとしない。それぞれの強みを活かす方法を考える。
3. 恐怖ではなく信頼で動かす
詰めて動かすと一時的には数字が上がるかもしれません。でも、それでは人は育ちません。
4. 小さく失敗する機会を作る
人は痛い目を見ないと変われません。大切なのは、致命的な失敗をする前に、小さく失敗しておくこと。チーム全体を崩壊させる前に、1人の部下との関係で失敗する。会社を辞める前に、1つのプロジェクトで失敗する。そういう「小さな失敗」を恐れずに、そこから学ぶ姿勢が大切です。
トップ営業マンは、良いマネージャーになれるのか。答えは「なれる」だと思っています。ただし、条件があります。自分のやり方を捨てる勇気があるかどうか。
プレイヤーとして成功した方法論は、一旦横に置く。部下一人ひとりと向き合い、彼らに合ったやり方を一緒に見つける。それができた時、初めて本当のマネージャーに近づけるのだと思います。
マネージャーの仕事は、部下の能力を最大化すること。そのためには、部下の成熟度を正確に見極め、それに応じてマネジメントスタイルを変える。モチベーション管理は日常的に。評価制度も成熟度に応じて設計する。画一的なマネジメントは楽ですが、それではマネージャーが価値を出しているとは言えません。
結局、マネジメントとは相性です。同じ仕事をしていても、上司が変われば評価も変わる。生産性も変わる。モチベーションも変わる。大切なのは、自分がどちらのタイプの上司と相性がいいか、早めに見極めること。そして、それに合わせてキャリアを設計することです。
部下の数だけやり方がある。これを理解し、実践できるマネージャーが、これからの時代に求められているのではないでしょうか。
関連記事:
営業マネージャーに求められる本質的な役割とは──チームを崩壊させた私の失敗から学んだこと
営業マネージャーが押さえるべき「4つのマネジメント手法」
営業利益率50%を支えるキーエンス「外報」システムから学ぶ、営業組織の強化術
この記事を書いたひと
株式会社マイノリティ 代表取締役
柳澤 大介
新規事業のマネタイズやグロースが専門。埼玉大学で「イノベーションとマーケティング講座」の講師を務める。監修した「法人営業の教科書」はUdemyの販売実績2,800万円のベストセラー。