「売上目標は立てているが、メンバーが日々何をすべきかが曖昧」「結果にばらつきがあり、どこにテコ入れすべきか分からない」——こうした課題を抱える営業マネージャーに必要なのが、BtoB営業の行動量管理です。
行動量管理とは、売上などの「結果」ではなく、そこに至るまでの「行動(プロセス)」を数値化して追跡・改善するマネジメント手法で、営業組織の再現性と予測可能性を高める基盤になります。
本記事では、キーエンス子会社・メルカリ・スマートニュースで営業責任者を務めた筆者の営業のマネジメント経験に基づき、行動量管理の基本概念から、具体的なKPI設計、実践方法、マネージャーに必要なスキル、失敗しないための注意点などを体系的に解説します。
※一般的には1人のマネージャーがマネジメントできる最大の人数は8名と言われています。筆者がメルペイの営業組織を立ち上げた時は、1人のマネージャーが最大で20名のメンバーをマネジメントして結果をだしていました。ぜひ筆者の経験を参考にしてください。
目次
営業マネジメントにおける行動量管理とは、売上や成約数といった「結果(アウトプット)」ではなく、そこに至るまでの「プロセス(インプット)」の量と変換効率を数値化し、管理・改善していくマネジメント手法です。
簡単に言えば、「今月はいくら売ったか?」を問うのではなく、「今月は何件電話をかけ、何件商談をしたか?」を指標として追跡する考え方です。
最大の理由は、「結果」は直接コントロールできない一方で、「行動」はコントロールできることにあります。
売上は、顧客の予算、競合の動向、経済状況など、営業担当者の努力だけでは左右できない外部要因の影響を大きく受けます。一方、「今日何件アプローチするか」という行動量は、担当者の意志と計画で100%実行可能です。
行動量管理は「十分な行動量(インプット)を確保すれば、一定の確率で必ず結果(アウトプット)に結びつく」という営業の基本法則(確率論)に基づいたマネジメント手法です。
1. 売上の予測が立てやすくなる
「例えば100件電話すれば、10件アポが取れ、3件提案でき、1件受注できる」という歩留まり(転換率)が可視化されるため、目標達成に必要な行動量を逆算できるようになります。
2. ボトルネック(課題)が明確になる
成績が振るわない場合、「気合が足りない」といった精神論ではなく、「商談数は足りているが、提案に至る確率が低い(=ヒアリング力が課題)」といった具体的な弱点がデータで判明し、的確な指導ができます。
3. モチベーションの維持につながる
結果が出ない時期でも「行動目標」を達成していればそれを評価できるため、営業担当者のモチベーション低下を防げます。
「行動量管理」「KPI」「目標管理」はいずれも営業マネジメントの用語ですが、役割が異なります。混乱を避けるために、営業マネジメントは以下の2層構造で捉えると整理しやすくなります。
| 管理対象 | 具体例 | 主な役割 | |
| 結果管理(KGI) | 結果指標 | 売上、受注数、粗利 | 評価 |
| 行動量管理(KPI) | 行動量+ 変換効率(率) | 架電数、商談数、提案数、アポ率、案件化率、受注率、リードタイム | 改善・支援 |
結果管理は「評価」のための指標、行動量管理は「改善とマネジメント」のための指標と位置付けると、役割が明確になります。
本記事で扱う「行動量管理」は、行動の”量”(架電数・商談数など)と、フェーズ間の”質=変換効率”(アポ率・受注率など)の両方を含む広義の意味で使います。
量だけを追っても質(転換率)が悪ければ結果に結びつかず、逆に質だけを見ても母数となる量がなければ売上は積み上がらないためです。以降、この広義の行動量管理に焦点を当てて解説します。
営業の行動量管理でチェックすべき重要指標(KPI)は、顧客との最初の接触から受注に至るまでの「営業プロセス(ファネル)」に沿って設定することが鉄則です。
特に検討期間が長く関与者が多いBtoBビジネスや高単価な商材では、単なる「電話の数」「訪問数」だけでなく、フェーズごとの量と質を立体的に追跡する必要があります。
見込み客(リード)にどれだけの量のアクションを起こし、どれだけ反応を得られたかを測るフェーズです。
アポイントが取れた後、「ただの挨拶」で終わっているのか、具体的な「案件」に進んでいるのかを見極めるフェーズです。
具体的な解決策を提示し、契約に向けて背中を押す段階の指標です。
各フェーズの「量」に加えて、フェーズ間の「歩留まり(転換率)」をチェックすることで、行動の「質」を管理します。
具体的な数値イメージがないと指標設計が難しいため、BtoB営業における一般的な目安を示します(商材・業界・価格帯により大きく異なるため、あくまで出発点としてご活用ください )。
| 指標 | 目安(BtoB一般) |
| 架電→アポ率 | 1〜5% |
| アポ→案件化率 | 30〜50% |
| 案件化→受注率 | 20〜40% |
| 架電→受注率(全体) | 0.1〜1% |
| BtoBリードタイム | 1〜6ヶ月 |
自社の実績をこの目安と比較し、大きく下回るフェーズに課題があると判断できます。
上記すべての指標を一度に追うのは現場の負担になります。「現在の売上目標に対して、最もボトルネックになっているフェーズ」の指標に絞ってトラッキングを始めるのが原則です。
たとえば筆者の経験では、ローンチ直後のプロダクトであれば、まずマネージャー自ら営業活動を行い、以下を把握することから始めます。
紙の日報やノートで行動を記録する、最も原始的な方法です。導入コストがほぼゼロで今日から始められるのがメリットですが、集計が手作業になるため、「チーム全体の俯瞰」「異常値検知」「過去推移分析」といった用途にはほぼ使えません。
現代の営業環境では、3名以下の小規模チームであっても最初からExcelや無料SFA(後述)で始めることを強く推奨します。
リモートワークやSaaS活用が標準化した今、紙・日報は後のデジタル化で二重管理のコストが発生するだけで、メリットが限定的です。ここでは過去の手法として紹介するにとどめます。
集計・分析が可能になり、関数やピボットテーブルで簡易ダッシュボードも作れるため、多くの営業組織が最初に選ぶ方法です。
課題は「入力の手間」と「運用の継続性」です。メンバー全員が毎日正確に入力しない限り、数字はすぐに実態と乖離します。マネージャー側の集計作業も増え、入力ルールを守らせるためのコストも小さくありません。ファイル共有・同時編集・バージョン管理・モバイル対応などの制約も多く、チーム規模が5名前後になると運用は限界を迎えるケースがほとんどです。
なお、立ち上げ期の小規模チーム(〜5名)であれば、HubSpot無料版などの無料SFAから始める選択肢もあります。Excelよりも初期の学習コストはかかりますが、将来のスケールを見据えると、最初からSFAに慣れておくメリットは大きいです。
営業プロセスのデジタル化には、SFA(Sales Force Automation)やCRM(Customer Relationship Management)の活用を強くお勧めします。
近年はHubSpot無料版のような無料・低コストで始められるSFAも充実しており、チーム規模が小さい段階から導入する企業が増えています。

全営業のアポ数・商談数・受注数・各種転換率をリアルタイムで一覧化でき、ハイパフォーマーが成功している要因や、メンバーの異常値が手に取るように分かります。このインフラを構築することで、少ないマネージャーで多くのメンバーをマネジメントできる体制が整います。
代表的なツール例:
| カテゴリ | 代表的なツール |
| エンタープライズ向け | Salesforce Sales Cloud、Microsoft Dynamics 365 |
| 中小・中堅向け | HubSpot、Zoho CRM、Pipedrive |
| 国内特化 | kintone、Mazrica Sales、eセールスマネージャー |
| チーム規模・状況 | 推奨する管理方法 |
| 〜3名(立ち上げ期) | Excel/スプレッドシート、または無料SFA(HubSpot無料版など) |
| 3〜5名 | Excelで運用しつつ、SFA/CRMへの移行を検討 |
| 5名以上 | SFA/CRM必須 |
| 複数拠点・リモート中心 | 規模問わずSFA/CRM必須 |
いろいろな本を読み漁った結果、最もしっくりきたのがハイアウトプットマネジメントという本の定義でした。
マネージャーの仕事は、部下の能力を最大化すること。
シンプルですが、これに尽きます。10人の部下がいれば、その10人分の能力を掛け算で引き出す。それがマネージャーの価値です。
ここで、筆者が会社員時代に痛感した、重要な理論を紹介します。 シチュエーショナルリーダーシップとは、部下の成熟度に応じてマネジメントスタイルを変えるという考え方です。
画一的なマネジメントは、必ずどこかのメンバーに合わなくなります。部下の習熟度を4段階に分け、それぞれに最適な関わり方を選びます。
S1:習熟度が低い(スキルもモチベーションも低い)
S2:やや習熟(モチベーションは上がってきたがスキル不足)
S3:かなり習熟(スキルはあるがモチベーションにムラ)
S4:習熟度が高い(スキルもモチベーションも高い)

よくある失敗例は、「温かく支援しよう」という意図でS1レベルのメンバーにS3的な援助型で接してしまうパターンです。S1にとってこれは「何をすればいいか分からないまま放置された」状態になり、行動量が激減します。S1には徹底した指示型が必要です。
逆にS4のベテランに指示型で細かく管理すると、「信頼されていない」と感じてモチベーションが下がります。部下のレベルに応じてスタイルを使い分けることが、行動量管理を機能させる前提です。
メンバーのコンディション把握やモチベーション維持のため、隔週以上、可能なら毎週の1on1をお勧めします。筆者の経験では、メルペイやスマートニュースでも、営業組織では原則毎週の1on1が実施されていました。
1on1で大切なのは「傾聴すること」です。
1on1はその都度日程調整するのではなく、重要なタスクとして毎週固定でスケジュールを押さえるのがコツです。
繰り返しになりますが、 マネージャーの仕事は部下の能力を最大化することです。
そのためには、部下の成熟度を正確に見極め、それに応じてマネジメントスタイルを変えることが大切です。モチベーション管理は日常的に行い、評価制度も成熟度に応じて設計しましょう。
画一的なマネジメントは楽ですが、それではマネージャーが価値を出しているとは言えません。
マネージャーが絶対に避けるべきは、メンバーとの1on1を頻繁に遅らせたりリスケしたりすることです。「自分は軽んじられている」と感じたメンバーは、以降本音で話さなくなります。
繰り返しになりますが、前述のシチュエーショナルリーダーシップの通り、部下の成熟度を無視した一律のマネジメントは必ずどこかで破綻します。特に「全員に同じ1on1内容」「全員に同じ目標設定の仕方」は典型的な失敗パターンです。
行動量管理を導入するとき、メンバーから「監視されている」「信頼されていない」と反発が出るのは最もよくある失敗パターンです。以下を徹底してください。
最近のスタートアップでは、OKR(Objectives and Key Results)という目標管理手法が人気です。
ただし、結果目標(OKR)の設定・レビューに時間を取られすぎると、行動量管理やメンバー支援の時間が奪われます。
四半期ごとのOKR運用は頻度が高すぎるケースも多く、作成とレビューだけで非常に多くの時間を消費します。
そのため筆者の意見としては、半期単位の方が、腰を据えて大きな成果を狙いやすいです。特に短期思考に陥りやすい営業部門では、長めのスパンで設計する方が合うことが多いです。
KPIは追えば追うほど入力負荷が増え、現場が疲弊します。「このフェーズのボトルネックを解消するために見る指標は何か」を軸に、3〜5個に絞るのが運用成功のコツです。
前述のS1レベルの部下には徹底した指示型マネジメントで、手取り足取り教える必要があります。
細かく指示を出し、進捗を毎日確認します。マイクロマネジメントは一般的には嫌われますが、S1レベルの部下にとっては必要な支援です。何をすればいいか分からない状態で「自由にやって」と言われても、動けるはずがありません。
モチベーションの高いチームと低いチームでは、同じ人員数・同じ商材でも成果が大きく違います。人は常に合理的に動くわけではなく、感情や相性、日々のコンディションの影響を受けます。
「プロなら自己管理すべき」という考え方もありますが、マネージャーがモチベーション管理まで含めて関与する方が、組織全体のアウトプットは確実に上がります。
モチベーションを上げる方法は複数ありますが、最もシンプルで本質的なのは給料(評価)への反映です。
褒められるのは嬉しいですが、評価や報酬に反映されなければ持続しません。逆に給与が上がれば、それは会社からの明確な評価のシグナルになります。飲み会や労いの言葉よりも、評価制度上きちんと報われる設計になっているかの方が、現在では圧倒的に重要です。
筆者の経験として、新しいメンバーには1週間程度の集中的なオンボーディングを行ってきました。特に重要なのは営業ロープレです。

このトレーニングには2つの目的があります。
90%再現を要求するため、中には1ヶ月以上営業に出られないメンバーも出ますが、長期的には確実に成果につながる取り組みです。
営業の行動量管理で参考になるのが、キーエンスの仕組みです。筆者が在籍していたキーエンスの子会社で実際に運用されていた内容を紹介します。
キーエンスでは社員グレードが3〜8まであり、グレードごとに評価基準の重み付けが異なる仕組みが特徴的です。
| グレード | 売上目標達成の比重 | プロセスの比重 |
| グレード3(新人) | 30% | 70% |
| グレード5(ベテラン) | 70% | 30% |
新人は結果よりもプロセス(行動量)重視です。営業には「ラッキーパンチ」(たまたま決まる大型案件)があり、それを評価しても再現性がないため、行動そのものを評価することで再現性のあるスキルを育てます。
ベテランは逆に結果重視です。既にやり方は身についているため、成果で評価します。これはシチュエーショナルリーダーシップの考え方と完全に一致しています。
さらにグレード3〜5は各グレード内で3段階、グレード6以上のマネジメント層は11段階に細分化されており、習熟度に応じてきめ細かく評価する仕組みが整っています(詳細は今回は割愛します)。
キーエンスグループでは、スクリプトを95%以上再現できないと客先に出られないルールが徹底されており、全営業がトレーニング開始後1週間以内で合格していました。標準化されたトークを全員が使えることで、属人性を排除し、組織全体の営業品質を底上げしています。
営業の行動量管理とは、コントロール可能な「プロセス」を数値化し、組織の再現性と売上の予測可能性を高めるマネジメント手法です。導入・運用のポイントは以下の通りです。
日々の行動を正しく計測し、適切なフィードバックサイクルを回すことで、強い営業組織を構築していきましょう。
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この記事を書いたひと
株式会社マイノリティ 代表取締役
柳澤 大介
キーエンス初のインターネット事業「イプロス」では、4.3万社が参画する製造業向けプラットフォームの成長を牽引。メルペイで100名規模の営業組織を構築し、国内182万ヶ所の加盟店を開拓。スマートニュースで営業企画責任者を経て、2021年に株式会社マイノリティを創業。B2Bビジネスのマネタイズとグロースが専門。埼玉大学で「イノベーションとマーケティング講座」の講師。
■ 経歴
株式会社マイノリティ 代表取締役(2021/2〜現在)
https://minority.works/
株式会社ブランドファーマーズ・インク 代表取締役(2025/11〜現在)
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社長ラジオ株式会社 代表取締役(2026/4〜現在)
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