営業マネージャーとして昇進した瞬間、私たちは大きな期待とプレッシャーを背負います。しかし「理想の営業マネージャー」とは、一体どんな人物なのでしょうか。
私自身、マネージャーとして多くの失敗を経験してきました。特に印象深いのは、自分が「マネジメントに慣れた」と勘違いし、チームを崩壊寸前まで追い込んでしまった経験です。この苦い経験から得た学びを、同じ立場で奮闘する皆さんと共有したいと思います。
目次
営業マネージャーの役割を理解する上で、まず押さえておくべき3つの本質があります。
多くの営業組織では、営業マネージャーがプレイングマネージャーとして機能することが求められます。自分自身も数字を追いながら、チームメンバーの管理も行う──この二重の役割が、実は最初の落とし穴です。
私が初めてマネージャーになったとき、以下のような状況に陥りました。
結果として、チーム全体の売上は私個人の成績に依存する構造になってしまい、組織としての成長が止まってしまったのです。

マネージャーという言葉から、多くの人は「管理する人」をイメージします。しかし本質的には「メンバーの成功を支援する人」であるべきです。
私が犯した最大の過ちは、メンバーを「管理対象」として見てしまったことでした。具体的には次のような行動に現れていました。
この結果、優秀だったメンバーから次々と退職の意向を告げられることになりました。彼らが口を揃えて言ったのは「自分で考える余地がない」「成長している実感がない」という言葉でした。

営業マネージャーには、チーム全体の戦略を立案する「戦略的思考」と、個々のメンバーの実行を支援する「コーチング」の両方が求められます。
しかし多くのマネージャーは、どちらか一方に偏ってしまいます。私の場合は完全に「実行支援」に偏っており、戦略的な視点が欠けていました。
マネージャーとして2年目に入った頃、私は大きな勘違いをしていました。「マネジメントに慣れてきた」という思い込みです。
経験を積むにつれて、メンバーの相談内容を聞いた瞬間に「答え」が見えるようになりました。すると無意識のうちに、メンバーの話を最後まで聞かず、自分の解決策を押し付けるようになっていたのです。
ある日、最も信頼していたメンバーから「最近、柳澤さんは私の話を聞いてくれませんね」と言われてハッとしました。
マネジメントに「慣れる」と、個々のメンバーの努力や成長過程よりも、結果としての数字だけを見るようになります。
私は月次のレビューで、目標未達のメンバーに対して「なぜできなかったのか」ばかりを問い詰めていました。そのメンバーが先月比で大きく成長していたこと、新しいアプローチに挑戦していたことなど、プロセスの価値を完全に無視していたのです。
「このやり方で結果を出してきた」という成功体験は、マネージャーを傲慢にします。私は全てのメンバーに対して、同じマネジメントスタイルを適用するようになっていました。
しかし当然ながら、メンバーそれぞれに最適なマネジメント方法は異なります。自律的に動けるベテランには細かい指示は不要ですし、新人には丁寧なサポートが必要です。この個別対応を怠った結果、チームの雰囲気は急速に悪化していきました。
チーム崩壊の危機を経て、私は営業マネージャーとしての姿勢を根本から見直しました。その過程で見出した5つの行動原則を紹介します。
自分が数字を作るのではなく、メンバー一人ひとりが成果を出せる環境を作ることこそが、マネージャーの仕事です。
私はこの原則を実践するため、次のような変化を自分に課しました。
答えを与えるのではなく、メンバー自身が答えを見つけられるよう支援する──これがコーチング型マネジメントの本質です。
具体的には、1on1の場面で以下のような質問を心がけるようになりました。
最初のうちは、メンバーも戸惑っていました。しかし続けるうちに、彼ら自身が主体的に考え、行動するようになったのです。
メンバーそれぞれの特性、キャリア志向、現在の課題を深く理解し、一人ひとりに合わせたマネジメントを行います。
私は各メンバーについて、以下の項目を整理するようにしました。
この情報を基に、Aさんには週1回の短い1on1を、Bさんには月1回の深い対話の時間を設けるなど、個別にカスタマイズしました。
営業という仕事は、成功よりも失敗の方が圧倒的に多いものです。その失敗をどう扱うかが、チームの成長を左右します。
私はチーム内で「失敗共有会」を月1回開催するようにしました。失敗した案件について、責めるのではなく、そこから何を学べるかをみんなで議論する場です。
最初は誰も発表したがりませんでしたが、私自身の失敗談を赤裸々に話すことで、徐々に心理的安全性が高まっていきました。
チーム全体の方向性を示しながら、個々のメンバーの実行を支援する──この両立が営業マネージャーには求められます。
私は以下のような時間配分を意識するようになりました。
この配分により、チーム全体の方向性を見失わず、かつメンバー一人ひとりの成長も支援できるようになりました。
自分がマネージャーとして成長できているかを測る指標を持つことは重要です。私が意識している4つの指標を紹介します。

個人の売上ではなく、チーム全体の売上が四半期ごとに成長しているかを見ます。理想的には、前年同期比で120%以上の成長を目指します。
全員が平均的に成果を出せているか、それとも特定のメンバーに依存しているかを見ます。標準偏差が小さいほど、チーム全体が機能している証拠です。
月次ミーティングなどで、メンバーから上がってくる提案の数を追跡します。提案が増えているということは、メンバーが主体的に考え、行動している証拠です。
優秀なメンバーが定着しているかは、マネジメントの質を測る最も重要な指標です。年間の離職率が10%以下であれば、良好なマネジメントができていると言えるでしょう。
理想の営業マネージャーに近づくために、今日から始められる具体的なアクションを3つ提案します。
まずは週1回30分、各メンバーとの1on1を確実に実施してください。そしてその時間の80%以上を「聴くこと」に使います。
1on1で意識すべきポイントは次の通りです。
Googleが提唱する「心理的安全性」は、高パフォーマンスチームの必須条件です。以下の質問をメンバーに匿名で答えてもらい、現状を把握しましょう。
| チェック項目 | 評価の目安 |
|---|---|
| このチームでは、失敗しても非難されないと感じる | 5段階評価で4以上が理想 |
| 自分の意見を率直に言える雰囲気がある | 5段階評価で4以上が理想 |
| チームメンバーは互いの強みを認め合っている | 5段階評価で4以上が理想 |
| 上司に相談しやすい雰囲気がある | 5段階評価で4以上が理想 |
| 新しいアイデアや挑戦が歓迎される | 5段階評価で4以上が理想 |
| 困ったときに助けを求めやすい | 5段階評価で4以上が理想 |
※評価が3以下の項目があれば、その領域に課題があります。チーム全体の平均が4以上になることを目指しましょう。
5段階評価で平均4以上が理想的です。3以下の項目があれば、そこに課題があります。
あなた自身のマネジメント哲学を、紙に書き出してみてください。以下のような問いに答える形で構いません。
これを言語化することで、ブレない軸を持つことができます。
営業マネージャーとしての仕事に「完成形」はありません。市場環境も、メンバーの状況も、常に変化し続けるからです。
私自身、今でも毎日のように「これで良かったのか」と自問自答しています。しかしそれこそが、マネージャーとしての成長の証なのだと思います。
大切なのは、「慣れた」と思った瞬間に立ち止まり、自分のマネジメントを見直す謙虚さです。メンバーの成功が自分の成功であり、チームの成功が自分の成功である──この原点を忘れなければ、必ず理想の営業マネージャーに近づいていけるはずです。
皆さんのマネジメントの旅が、実り多いものになることを願っています。
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この記事を書いたひと
株式会社マイノリティ 代表取締役
柳澤 大介
新規事業のマネタイズやグロースが専門。埼玉大学で「イノベーションとマーケティング講座」の講師を務める。監修した「法人営業の教科書」はUdemyの販売実績2,800万円のベストセラー。