初めてマネージャーになったものの、「何から手をつければいいのか分からない」「チームがうまく機能しない」「メンバーのモチベーションが上がらない」といった悩みを抱えていませんか?
私も長年、BtoB企業の現場を見てきましたが、特にスタートアップでは、マネジメントを体系的に学ぶ機会がないまま、突然マネージャーになるケースが少なくありません。その結果、属人的なマネジメントに陥り、チームの成長が停滞してしまうことも。
そこで今回は、株式会社ナレッジワーク代表の麻野耕司さんが提唱する「4つのマネジメント」フレームワークを、実践的な視点から解説します。麻野さんは『THE TEAM 5つの法則』の著者としても知られ、多くの成長企業の組織変革を支援してきた方です。
このフレームワークの特徴は、マネジメントを以下の4つの領域に整理し、それぞれが相互に関連する「システム」として捉えている点にあります。
本記事では、各領域の定義から実践方法まで、具体例を交えながら詳しく解説していきます。読み終わる頃には、あなたも明日からチームに変化を起こせるようになるはずです。
フィロソフィー・マネジメントとは、企業のミッション・ビジョン・バリューといった「理念」をチームに浸透させ、メンバー全員が同じ方向を向いて進めるようにするマネジメントです。
麻野さんは「最初に取り組んだのが企業理念の策定だった」と述べているように、これはすべてのマネジメント活動の土台となります。なぜなら、共通の目的意識がなければ、どんなに優秀な人材を集めても、バラバラの方向を向いてしまうからです。
理念の浸透は、一朝一夕には実現しません。以下の4つの段階を意識的に進める必要があります。
麻野さんが創業したナレッジワークでは、「LIFE WITH ENABLEMENT(できる喜びが巡る日々を届ける)」というミッションを掲げ、初期メンバー集めの段階から、このミッションに共感する人材を採用しています。
また、ディズニーの例も参考になります。多くの従業員は給与や職種よりも「夢の国を創る」「ハピネスを届ける」といった理念に惹かれて働いており、これが強い組織文化を生み出しているのです。
ストラテジー・マネジメントとは、チームや事業の「何をするか」を明確にし、限られたリソースを最も効果的に配分するためのマネジメントです。
麻野さんは「顧客がなぜ自社の商品を選んでくれるかの理由を作ることだ」と述べていますが、この「選ばれる理由」こそが戦略の核心です。明確な戦略がなければ、努力のベクトルが定まらず、「あれもこれも」と手を広げた結果、どれも中途半端になってしまいます。
内部環境 | 外部環境 |
---|---|
強み(Strengths) ・技術力の高さ・顧客との信頼関係 | 機会(Opportunities) ・市場の成長・規制緩和 |
弱み(Weaknesses) ・営業力不足・資金力の限界 | 脅威(Threats) ・新規参入の増加・技術の陳腐化 |
単に要素を洗い出すだけでなく、それらを掛け合わせて具体的な戦略を生み出します。
あるSaaS企業のサポートチームは、「問い合わせ対応件数」というKPIに追われて疲弊していました。マネージャーが3C分析を実施した結果、以下のことが判明しました。
そこで、チームのKSF(重要成功要因)を「問い合わせ件数の処理」から「問い合わせ発生率の低減」へと転換。ベテランスタッフが中心となってFAQやチュートリアル動画を作成し、「火消し部隊」から「価値創造部隊」へと変貌を遂げました。
パフォーマンス・マネジメントとは、チームや個人の目標を設定し、その進捗・成果を管理することで、継続的に成果を創出する仕組みです。
多くのチームがPDCAサイクルを「知っている」と言いますが、実際には形骸化しているケースが少なくありません。麻野さんも「設定した目標とその施策に対する検証と改善が行われないままだと、問題点が放置され効果が低下する」と警鐘を鳴らしています。
フェーズ | やるべきこと | よくある失敗 |
---|---|---|
Plan(計画) | ・SMARTな目標設定 ・5W2Hで具体的な行動計画 ・成功の測定基準(KPI)を定義 | ・曖昧な目標設定 ・過去の踏襲で仮説がない ・すぐ実行に移る |
Do(実行) | ・計画に沿って実行 ・内容、日時、結果を記録 ・計画外の事実も記録 | ・記録を残さない ・途中で勝手に変更 ・完璧主義で遅れる |
Check(評価) | ・データに基づく客観的評価 ・目標達成/未達成の要因分析 ・成功要因と失敗要因の特定 | ・感覚で評価する ・責任追及に終始 ・評価を省略する |
Action(改善) | ・成功要因の標準化 ・失敗要因への改善策立案 ・次の計画への反映 | ・精神論に終わる ・対症療法に留まる ・改善策を反映しない |
Googleをはじめ多くの先進企業が採用するOKRは、以下のような構造になっています。
Objective(目標):顧客体験を劇的に改善する
Key Results(主要な結果):
ピープル・マネジメントとは、メンバー一人ひとりの力を最大限発揮させるためのマネジメントです。麻野さんは「従業員のエンゲージメント(仕事への情熱や会社への愛着)を高めることを重視する」と述べています。
実際、人材こそがスタートアップ最大の資産です。優れた理念も巧みな戦略も、それを実行する「人」なくして実現しません。また、優秀な人材ほど転職の選択肢が多い今、エンゲージメントの高い職場環境を作ることが、採用競争力にも直結します。
日本でもヤフーが全社導入したことで注目された1on1は、今やパナソニック、日清食品、ソニー、楽天など多くの企業が取り入れています。
GROWモデルは、部下が自ら答えを見つけ出すプロセスを支援する強力なフレームワークです。
ステップ | 目的 | 質問例 |
---|---|---|
G – Goal(目標) | 本人が望む理想状態を明確化 | 「この面談が終わった時、何が明確になっていたら理想的?」 |
R – Reality(現状) | 目標に対する現在地を把握 | 「その目標を10点満点とすると、今は何点?」 |
O – Options(選択肢) | 可能な行動の選択肢を拡大 | 「制約がなかったら、どんなことができる?」 |
W – Will(意志) | 具体的な最初の一歩を決定 | 「明日からすぐに始められることは何?」 |
Googleの調査プロジェクト「アリストテレス」が明らかにしたように、心理的安全性はチームの成功を予測する最も重要な因子です。
4つのマネジメントは独立したものではなく、相互に影響し合うシステムです。
すべてを一度に変えようとすると失敗します。以下のステップで段階的に進めましょう。
ここまで、麻野耕司さんの「4つのマネジメント」フレームワークを詳しく見てきました。最後に、各領域の要点をもう一度整理しておきます。
マネジメント領域 | 問い | キーアクション |
---|---|---|
フィロソフィー | なぜ存在するのか? | ミッション・バリューの共創と浸透 |
ストラテジー | 何をすべきか? | 3C/SWOT分析による戦略策定 |
パフォーマンス | どう実行するか? | PDCAサイクルとKPI管理 |
ピープル | 誰と共に歩むか? | 1on1とコーチングによる成長支援 |
マネジメントに「正解」はありません。しかし、体系的なフレームワークを持つことで、より良いマネジメントの実践は必ず可能です。
4つのマネジメントは、スタートアップという不確実性の高い環境で、チームの力を最大限に引き出すための羅針盤です。完璧を目指す必要はありません。小さく始めて、継続的に改善していくことが何より大切です。
※本記事は麻野耕司さんの著書やブログ、SNSを調査して、私の知見を元に独自解説しました
参考情報:
PDCAマネジメントのコツ|メンバーマネジメントのコツも解説
Management Boot Campのお知らせ
筆者:中元鈴香
BtoB領域に特化したライター。5年以上にわたり、SaaS、IT、人材、コンサル業界のコンテンツ設計とライティングに従事。上場企業のオウンドメディア立ち上げや、中小企業のSEO内製化支援も多数経験。