株式会社カミナシが2020年6月末にリリースした、現場DXプラットフォーム『カミナシ』は、工場や店舗などで使われる点検記録や作業記録などの「紙」をデジタル化し、それぞれの現場に合わせた独自の業務アプリを「ノーコード」で作り出せるというノンデスクワーカーを対象としたこれまでにないSaaSです。
そのユニークな発想が市場から評価され、これまで約150社が導入、売上は前年同月比918%(2021年8月時点)という驚くべき数字を叩き出しています。また、2021年3月に総額約11億円の資金調達も実施したことでも話題になりました。
ここではその飛躍的な成功の秘訣について、同社代表取締役CEO諸岡裕人さんとセールスチームを統括する富澤仁さんにお話をおうかがいしました。
–まずは、『カミナシ』というソリューションについて、改めて教えてください。
諸岡社長:『カミナシ』を一言で表現すると「現場DXのためのノーコードツール」です。
現在、日本の就業人口が約6,700万人で、そのうち半数以上の3,900万人が現場で働くノンデスクワーカーと言われていますが、これまでこうした方々はITやデジタルの恩恵を受けられずに働いていました。おそらく20〜30年くらい前からほとんど働き方が変わっていないんじゃないでしょうか?
そこで我々は「ノンデスクワーカーの才能を解き放つ」というミッションを掲げ、日々、『カミナシ』の機能強化と普及に取り組んでいます。–具体的にはどんなことに使われているんですか?
富澤さん:たとえば、ある食品工場では法令に基づいた品質点検や品質管理、衛生管理に『カミナシ』を使っていただいています。また、全国360か所以上の施設数を誇るホテルチェーンでは、年間15万枚もの紙の帳票を『カミナシ』に置き換えていただきました。
そのほか、全国約350の店舗を展開する外食チェーンなど、幅広く多くの業界の皆さまにご利用いただいています。
諸岡社長:従来、こういったことをやろうと思ったら、まず現場の人が上司に相談し、上司が本社のシステム部門に、システム部門は外部の開発会社にといった伝言ゲームになっていき、ほぼほぼ現場の意見は届かず、時間もかかりすぎてしまうという問題がありました。なにか問題が起きたらまたその繰り返しですから、理想的なデジタル化なんて実現できません。
でも『カミナシ』なら現場の人が自分たちで、自分たちが使いやすいアプリを作って、使っているうちに使いづらい部分を見つけたら、その場で10〜20分程度、現場にあるパソコンで管理画面をいじるだけで問題点を改善したバージョンができあがります。
『カミナシ』があると、現場でアプリがデプロイされるんです。これってちょっと考えられなかったことですよね。また、その結果、お仕着せのDXよりも成功率が上がるという効果も期待できます。–それが『カミナシ』の急成長の秘訣なんですね。
諸岡社長:それもあると思うのですが、もう1つ大きかったのが、従来の現場向けソリューションとは売り込み先が違っていたということ。
これまで、こういった仕組みは企業のシステム部門に売り込むというのが普通だったと思うのですが、カミナシでは現場主導で導入を決めていただくことがとても多いんです。
事実、昨年実施した顧客アンケートでは、導入推進者の94%が非IT部門の現場の方々だったという結果が出ています。
–それはすごいですね!
諸岡社長:おそらく従来はシステムやITツールの導入は、まずシステム部門へ営業をかけることが前提になっているのだと思います。カミナシは「ノーコードツール」のメリットを活かして現場担当者に直接営業をしているため、まだ誰も手を付けていない無人の野を行くような感じで営業を進められています。
–そんな『カミナシ』の現在の実績について教えてください。
諸岡社長:おかげさまで、昨年末の時点で有償契約企業数を約150社にまで増やすことができました。なお、これはあくまで企業数で、中には先ほどお話しした約360施設のホテルチェーンなども1社として含まれています。現在は、中小企業を中心にサービスを提供しているのですが、今後は大企業を巻き込んでいきたいと考えています。
–ところでカミナシは2016年末創業とのことですが、『カミナシ』のローンチは2020年6月ですよね。この空白の3年半、いったいなにをされていたのでしょうか?
諸岡社長:実は、『カミナシ』ローンチの前に、食品工場に特化したバーティカルSaaSをやろうとしていました。結論を言うとこれは全く上手く行かず、3年くらいズルズルと続けて、最終的に現在の事業にピボット(事業転換)することになったというのが真相です。
–『カミナシ』の前に、幻のプロダクトがあったということですか?
諸岡社長:そうなんです。そして、その時痛感したのが起業のDAY1で選ぶ市場性の見極めがものすごく重要なんだということでした。
–食品工場の市場性が低いと言うことですか?
諸岡社長:いえ、そうではなく見立ての甘さですね。
僕らは当時、国内に4万事業所の食品工場があるという前提で事業をスタートしたのですが、実際に蓋を開けてみると、その中で、毎月20−30万円のシステム投資が可能な規模の事業所は上位10%くらいしかなかったんです。4万事業所の中に、SaaSを必要としない小さな工場とかが含まれることを理解していなかったんですよ。
4万事業所の10%ということは4,000事業所ですよね。その市場の中で上場するために必要となるARR(Annual Recurring Revenue/年間定額収益)を作るためには1つの企業からいくらもらわなくちゃいけないんだ、ってみんな青ざめてしまって(苦笑)。
仮にARRが20億円だとすると、がんばって10%を取れたとしても1社あたり年間500万円、つまり約40万円/月もいただかなければならない計算です。でも、当時のカミナシに、それだけの対価を取れるような、深い課題を解決できるプロダクトを作る力はありませんでした。
–創業初期にそんな見込み違いがあったんですね。
諸岡社長:そうした経験を踏まえ、もし過去の自分に何か伝えることがあるとすれば、シード期には少しでも投資家から興味を持ってもらえるよう、課題の部分でまず尖ろうとしがちなのですが、それは実は悪手なんだということ。
実際、カミナシを立ち上げたときも「食品工場向けのSaaS」ってところを面白がって、次から次へと投資家が会いに来てくれました。でも、そういうまだ解かれていない珍しい、耳目を集めそうな課題にはやっぱり理由があるんですよね。
それは、解けないくらい難しいから、あるいは優先度が低くて誰もやろうとしていないから。そこに安易に手を出すと壁にぶつかってしまうと思います。–なるほど。でも、だとしたらどうやって注目を集めればいいのでしょうか?
諸岡社長:課題ではなく、ソリューションの部分で尖ることが大事だと思います。あと、もう1つ大切なのが、多くの人に応援してもらえるようなものにすること。
たとえば『カミナシ』は、「あらゆる現場で紙をなくす」という課題に取り組んでいます。でも、そこに約3,900万人の現場で働く人の才能を解き放つというメッセージをきちんと打ち出していくことで、『カミナシ』が社会課題を解決するプロダクトであることが伝わりますし、興味を持ってもらいやすくなるんじゃないでしょうか。
–普遍的な市場に尖ったソリューションで飛び込み、かつ、それをわかりやすく伝える工夫を怠らないことが大切ということですね。
諸岡社長:はい。シード期にはまず、そういったところで工夫した方が、後々苦しまないと思います。
–マイノリティでは、2021年5月から貴社業務の支援を開始させていただいています。まずは具体的な支援内容について教えていただけますか?
富澤さん:まず、マイノリティの柳澤さんに事業内容についてヒアリングをしていただき、主に2つの点でご支援いただくことになりました。
1つがフォーキャストの管理ですね。セールス活動って、フォーキャストを出しながら、それが予算に対してアジャストしているかをPDCAで回していくところに軸があると考えているのですが、当時のカミナシはその辺りがブレブレだったんです。そこを柳澤さんにテコ入れしてもらいました。
そしてもう1つが商談の型作りです。当時はまだセールスの担当者が3人しかおらず、それぞれがかなり属人的なやり方をしていたので、そこを改めるべく、初回商談や全体のパイプライン管理の型作りの伴走をしていただいています。具体的には商談前準備の外報という取り組みを手伝っていただいたり、それに基づいて実践した結果どうだったかというレビューをしていただいたりしました。
また、当時、成果はでているが数字が安定していなかったメンバーに対して、付きっきりで実務スキルの向上などについてご指導いただくなんてこともやっていただいています。
–その結果はいかがでしたか?
富澤さん:1つ目のフォーキャスト管理の成果の1つとして新規の売上創出が挙げられると思うのですが、これについてはマイノリティに入ってもらった前後のクォーターで130%くらい伸びています。
そしてもう1つの商談の型作りについても、柳澤さんが指導してくださったメンバーが148%も成長するといったかたちで成果が現れています。どちらもマイノリティがいなかったら実現できなかった数字だと思っています。
–そのほか、マイノリティとのやりとりで印象に残っていることはありますか?
富澤さん:本当にいろいろあるのですが、特に印象に残っているのは、セールス部門のカルチャーを作ったことですね。
カミナシには全社的に「現場ドリブン」「全開オープン」「β版マインド」というバリューがあるのですが、それをセールスチームで体現するにはどうすればいいのか置き換えたものを、オフサイトミーティングで柳澤さんとチームのみんなで考えたんです。このとき、これまでさまざまな強い組織を見てきた柳澤さんの知見がものすごく参考になりました。
僕らもこうあるべきだみたいなことは言えるのですが、それがどれだけ価値があることなのか、どういう難しさがあるのかというのは分かりませんから。
–具体的にはどんなバリューになったんですか?
富澤さん:「凡事徹底」「鬼速アクション」「言っていこう」という3つです。これをみんなで話し合って決めたこと、そしてその後、繰り返し使っていったことは、セールスチームにとって大事なチャレンジでしたし、今でも活動の礎になっていると思います。
そして、そんなところにまでお力添えいただいたことが本当にありがたかったですね。こんなこと、ほかの会社ではやってくれないと思います。
–最後に今後、マイノリティに求めることについてお聞かせいただけますか?
諸岡社長:今、僕らが柳澤さんにお願いしていることって、本当であれば自分たちでできるようにならねばならないことなんですよね。ですので、柳澤さんには社内に柳澤2世、3世をどんどん増やしていくご支援をしていただきたいなと思っています。
もちろん、それで代わりができたらさようならということじゃありません。カミナシが大きくなっていく中でさらに別のお願いしたいことができていくはずですし、セールス以外のチームにも柳澤さんから教われることがたくさんあるのではないかと思っています。
ですので、柳澤さんには、これから生まれてくるたくさんのクローンたちの元締め(笑)みたいなことをやっていただきたいですね。これからもよろしくお願いいたします。
カミナシ様は2020年にIVS LAUNCHPAD SaaSで優勝し、翌年にはシリーズAで11億の資金調達を実施されました。その頃出会い、最初に私が驚いたことは、同社のカルチャー(ミッション・バリュー)が全社員に浸透していたことです。それは、かつて私が在籍していたメルカリやスマートニュースを彷彿とさせる活気のある組織となっていました。
そんな中、当社では営業組織における正確な予実管理やセールスイネーブルメントのご支援を行いました。セールスイネーブルメントでは、キーエンスの営業組織でも実施されている外報(外出報告)を取り入れ、商談前の仮説の壁打ち・商談後の振り返りを行いました。全ての商談に対して準備を徹底し、レビューを繰り返すことで営業メンバーのスキルを短期間で向上させることができました。
引き続き、「カミナシらしさ」を活かして営業力向上に繋がるご支援が出来たらと思います。