――本日は、Eコマース関連のサービスを多数リリースしている、株式会社コマースロボティクスの伊藤社長にお話を聞いていきます。よろしくお願いします。
伊藤さん:よろしくお願いします。
――さっそくですが、株式会社コマースロボティクスはどのような事業をしている会社なのでしょう?
伊藤さん:シンプルに言えば、EC向けの倉庫管理や受注管理などを組み合わせたSaaSソリューションを提供している会社です。最近では、事業の幅をECからコマース全般に広げています。
――複数のサービスを運営されているとのことですが……すみません、まず「EC」と「コマース全般」の違いを教えていだけませんでしょうか。
伊藤さん:ECは、電子商取引のことで、主にB2CのEコマースと定義されますが、最近は、C2CやB2Bにも拡大されています。
一方、コマース全般とは、アナログを含むすべての商取引を意味します。
私は、以前からすべての商取引はEC化に向かって進んでいると考えています。例えば、紙の請求書が電子請求書に代わり、さらに電子決済が加われば、一般の取引きECと言えるのではないでしょうか?そのような新規サービス開発にチャレンジしています。
――つまりEコマースの中に、コマース(商取引)全般が吸収されるということですね。そういえば御社は以前「株式会社ECロボ」という社名だったそうですが、そのあたりとも関係が?
伊藤さん:ええ。創業当初はECに特化した事業を行っていたのですが、ソリューション対象が拡大してきたので、「コマース全体に対応する会社」という意味で「株式会社コマースロボティクス」という社名に変更しました。
――なるほど。では現在リリースされているサービスについてご説明いただけますか?
伊藤さん:まず、当社のメイン事業となっているのが『コマースロボ(COMMERCE ROBO)』ですね。これはOMSとWMS一体型のEC自動出荷システムで、900社以上のお客様にご利用いただいています。
――「OMS」はオーダーマネジメントシステムの略で、注文管理システムのこと。そして「WMS」はウェアハウスマネジメントシステム、つまり倉庫管理のシステムですね。
伊藤さん:そうです。ECサイトの運営は基本、楽天やAmazonのようなストアフロント(オンライン上の売り場)でまず受注して、それをOMSで受注処理して、それからWMSで商品を出荷するという流れなんですね。
――EC事業には、ストアフロント、OMS、WMSの3点セットが必要だと。
伊藤さん:そういうことです。この3つはそれぞれ別のサービスを連携して使うことが多いんですが、我々の『コマースロボ』はOMSとWMSがセットになっているのが特徴です。それにより人件費の削減やヒューマンエラーの防止になります。
――なるほど。ところでなぜOMSとWMSをセットで開発しようと考えたのでしょう?
伊藤さん:実は『コマースロボ』開発の前にWMS単体のサービスを作っていたんです。『エアロジ(Air Logi)』というサービスで、こちらは110以上の倉庫事業者様、1,400以上のEC事業者様に導入いただいています。
ユーザーの声を聞くと、OMSとWMSを一体化することで商品マスタの2重管理が不要になったり、EC事業者様の負担を大幅に削減できることが分かりました。それがOMSとWMSをセットで開発した理由です。
――なるほど。つまり『エアロジ』にOMSを追加してリリースしたのが『コマースロボ』なんですね。『エアロジ』はWMSとしてどのような特徴があるのでしょうか?
伊藤さん:倉庫の物流業務を効率化する機能をいくつも実装しています。例えば、バッチ処理という特許技術です。これは、優秀な倉庫事業者では、以前からエクセルのマクロでやっている業務です。いろんなパターンで注文をグルーピングします。
例えば、1点購入と2点以上購入、同一商品を購入した人などでグループ化します。グループごとに作業すると効率があがるんですね。これについては特許を取得しています。
――つまりエアロジは、現場に優しいシステムということですね!
伊藤さん:ええ。物流現場では、バッチ機能は圧倒的に支持されています。他社のシステムより格段に現場効率が上がるからです。
それから宅配会社の送り状もWMSから直接印刷できるので、こちらも競合より比較にならないくらい効率化が可能です。
――どのようにして他社にない機能を開発したのですか?
伊藤さん:競合もたくさんある中で、「今のレベルで考えたもの」を開発しても意味がないと思ったんですよね。ですから最初は「こんなシステムがもしあったら欲しくないですか?」という風に、受託ではなく自社発信の形で提案しました。
――ああ、つまりサービスがまだない状態で提案したと。
伊藤さん:そうですね。まず1社に提案してOKをもらって、その会社用にWMSを開発した。これが『エアロジ』のMVP(Minimum Viable Product=必要最低限の製品)になったわけです。
――なるほど。プロトタイプができたと。
伊藤さん:そういうことです。で、そのプロトタイプをお客さんの倉庫とか、自分たちが管理代行している倉庫に導入する。そうすると、いろいろなフィードバックが集まるわけですよ。「こんなエラーが出て困った」とか「ここをもっとこうして欲しい」とか。そういった意見を元にどんどんシステムを改修していく。
――いわゆるアジャイル開発のような。
伊藤さん:まさにそうです。今でいうアジャイル開発とかスタートアップ理論のようなものですよね。といっても、当時はそんな言葉はまだなかったんですけど(笑)。
――それを自然とやっていたと(笑)。でも、なぜそのような開発スタイルになったんでしょう。
伊藤さん:端的に、お金がなかったからでしょうね(笑)。でも、その方がよかったと今は思います。もしお金があったら、お客さんや現場の意見を聞かないままどんどん作ってしまうでしょう? それが現場にフィットしているのかわからないまま、自分たちの勝手な意見で突き進んでしまう。
――なるほど、確かに。……かくして『エアロジ』はどんどん改修され、今のようにたくさんの会社に使われるものになった。
伊藤さん:そういうことです。そしてその改修は今でも続いています。そもそもシステムに「完成」はないんですよ。ずっと改修し続けるからこそ、『コマースロボ』のような発展型のサービスも生まれてくるわけで。
――なるほどなるほど。他のサービスはいかがですか?
伊藤さん:他には海外EC向け越境サービスの『エアトレード(Air Trade)』というものもやっています。日本でECをやりたいという海外企業向けの出店サポートサービスですね。各モールとのやり取り、カスタマーサポート、広告表現の規制チェックなどをパッケージ化したものです。
――なるほど、海外企業向けサービスだと。ちなみにこちらはどういう経緯で開発を?
伊藤さん:2013年頃に某アメリカ企業から「日本で物販がやりたいんだけど」と相談があったんですよね。定款の問題で自分たちではできないからと。
じゃあ我々でシステムを作ろうかということで開発したのが『エアトレード』の原型、つまりMVPで。
――ああ、同じくそれも現場の意見をたくさん吸い上げて回収し、そして商品としてリリースされたわけですね。
伊藤さん:そうそう。最初に声をかけてくれた会社は撤退してしまったんですが、アメリカ、ヨーロッパ、中国など150くらいの海外企業に導入いただいてます。
――へぇ、すごいですね。
伊藤さん:あとはもう1つ、企業向け請求書システムの「セールスグラム」というのがありますが、これは現在社内の最終テスト中で、もうすぐ正式リリースするものです。
――ありがとうございます。コマースロボティクスのサービス内容がわかったところで、ここからは少し伊藤さんご自身のことを聞いていきたいのですが。やっぱり子供の頃からエンジニア気質だったんですか?
伊藤さん:いや全然(笑)。勉強が嫌いで、外をうろうろしているような子どもでした。
――そうなんですか(笑)。その頃の将来の夢はなんだったんですか?
伊藤さん:小中は特になかったですけど、高校で考古学とか古生物学とかに興味を持って。珍しく自主的に勉強もしていたんです。将来はそういう方面に進みたいなと漠然と思っていましたね。
――なるほど、ということは大学はそちらの方面に?
伊藤さん:それが、「考古学なんて儲からん!そっちに行くなら学費は出さない」と親に言われてしまって(笑)。私自身「それもそうか…」と納得して、結局工学部に進むことになりました。
――あ、そこでエンジニアリングと繋がるんですね。工学関係にも興味があったんですか?
伊藤さん:いや、特にそうでもなく(笑)。薬学部と工学部で迷って、工学部の方が学費が安かったのでそっちにしただけで……。だから入学後も、2年間はまったく行ってませんでしたね。パチンコ、ギャンブル三昧で、お酒ばかり飲んでいて。
――へぇ、なんだか意外です(笑)。でもまったく行かないって、単位はどうされたんですか?
伊藤さん:3年になって、1年間で3年分の単位を取りまして。まあなんとかなりました。
4年になるとさすがに研究を真面目にやらなければいけなくなって、素材の研究なんかをしてましたね。アルミニウムの結晶を調べたり、加工したり。
――なるほど。それで就職は?
伊藤さん:トヨタ自動車に入りました。まあ、別に自動車に興味があったわけけじゃなく(笑)、大きい会社のほうが安定していていいだろうと思っただけで。
――トヨタではどのような仕事をされていたんですか?
伊藤さん:生産技術の仕事ですね。開発部が作った自動車を大量生産するためのあれこれを用意する部門です。工場の設営から始まって、設備や金型の設計までを担当するわけです。
――なるほど。トヨタの手法は世界的にも有名だったと聞きますけど、実際そうだったんですか?
伊藤さん:ええ。当社がECで目指すサプライチェーンマネジメントは、もともとトヨタが開発したTPSという仕組みが原型となっていることが分かりました。それを米国MBAなどで分析して、理論体系化して生まれたものです。
そのTPSを米国のGM(General Motors)などに教えていました。私自身も米国に教育に行った経験があります。
――えっ、海外企業にトヨタの人が直接教えたんですか?
伊藤さん:ええ、当時はアメリカにGMと合弁で作った工場がありまして。フリーモント工場ですが、いまはテスラの工場になっちゃいましたね。
――へぇぇ、すごいですね。でも、そういうスケールの大きな仕事をしていたのに、どうして辞めてしまったんでしょう。
伊藤さん:まあ、会社が大きすぎて、なかなか自分の思う通りにはできなかった、ということでしょうね。組織が縦割り構造で、専門分野以外のことになかなか関われないという事情もありました。
――自分で商売をしてみたい、という欲が高まった。
伊藤さん:まさにそういうことですね。それならまずは商売の一連を学ばないとなと思い、商社に転職しました。
――商社時代は何を扱っていたんですか?
伊藤さん:航空宇宙関連ですね。わかりやすく言えば、アメリカの戦闘機とかミサイルとかロケットとかのライセンスを扱っていました。
――え? どういうことですか? そういう兵器の製造ライセンスということですか?
伊藤さん:国の仕事なのであまり詳しくお伝えできませんが、欧米の先進技術を日本の大手企業に仲介するビジネスです。戦闘機関連およびH2ロケットなど宇宙関連、衛星電話を活用した遠隔医療支援システムなどで、特に戦闘機に関しては詳しく知っていますね。
――へぇぇ。これまたスケールの大きい仕事ですね。
伊藤さん:まあ、例によって別にそういった分野に興味があったわけじゃなく、たまたまなんですけど(笑)。でもそこで出会った上司からはすごく影響を受けましたね。
――どんな方だったんですか?
伊藤さん:日本人なんですが、ずっとアメリカで商売していた人で。ボーイングとかナイキと取引してたとかで、あのビル・ゲイツにも会ったとか言ってました。
――すごい! その方からどんな影響を?
伊藤さん:一番影響を受けたのは柔軟性です。保守的な考え方がまったくなくて、とにかくやってみよう、やってみてから考えようという人で。
――ああ、それは先ほど伺ったアジャイル開発の考え方にも通じるものがありますね。
伊藤さん:そうそう。結局、彼からの影響もあって「自分で会社を起こすぞ」と決意し、それで今に至る感じです。
――そんな伊藤社長ですが、サービスのPRや営業ってどうされているんでしょうか? 先ほどの教えていただいた導入社数の多さを考えても、かなり力を入れていると思うのですが。
伊藤さん:いや、むしろ私は常に「営業しなくても売るにはどうするか」を考えているんです。
――えっ、営業しなくても売れる、ですか。
伊藤さん:ええ。「営業するぞ!」と考えると、営業手法ばかり考えちゃうでしょう? 広告やLPも同じで、それ自体が目的化してしまって、柔軟な考えができなくなる。それって個人的には無駄なことだと思っていて。
――とはいえ、顧客獲得ができなければ売上も立たないのでは?
伊藤さん:ええ、もちろん。ですから私が気にするのはリード数ではなく成約率です。たとえば10社受注したいとして、成約率が10%なら100社のリードが必要ですが、成約率100%なら10社でいい。私は後者を目指したいんです。
――なるほど。商談したら必ず受注できる、くらいの体制を作りたいと。
伊藤さん:ええ。成約率80%は目指したいと思っています。そうじゃないと大きくは儲けられないんです。営業するぞ! リード獲得するぞ! という普通の考えでは、普通の規模の儲け方しかできない。
――そうか、それこそ商社時代の上司さんのように、柔軟に考えないといけない。
伊藤さん:ええ。そういう意味では、関わる人数も増やしたくないんです。私1人と、あとは0.5人くらいで回せるサービスを作りたい。「いやそんなの無理でしょ」から出発するんじゃなく、「それを実現するにはどうすればいいか?」と考えていたいんです。
――それではここからはマイノリティとの関係についてお聞きします。どのような経緯でお声がけくださったのでしょうか。
伊藤さん:先ほど「営業しなくても売れる体制」という話をしましたが、もうひとつ考えているのが「高収益化する方法」です。前者に関しては自分で考える必要がありますが、後者については前例がいろいろあるわけです。
――なるほど、他の企業が試して成功した事例があると。
伊藤さん:そういうことです。その中でも、キーエンスという会社には注目していまして。トヨタ時代の取引先の一つでしたが、当時はまだまだ小さな会社で。でもその後、皆さんご存知のように大成功しました。
――なるほど、それで研究対象にされていると。
伊藤さん:ええ。製品開発から営業手法、経営手法など5年以上研究しています。それでキーエンス出身の方にいろいろお話を聞いたりコンサルしてもらったりする中で、同じくキーエンスのノウハウを持つマイノリティさんにもお声がけしました。
――ありがとうございます。どのような支援をさせていただいていますか?
伊藤さん:マーケティングに関するコンサルですね。成長と収益をどう両立していくかについて、具体的な施策をアドバイスしていただいている形です。
――なるほど、ありがとうございます。ちなみに今後はどのような展望をお持ちなのでしょうか。
伊藤さん:正直に言って、現在やっているビジネスは「途中」なんです。各プロダクトも、将来もっと大きな規模でやるビジネスのパーツとして作っている感覚で。
――それはどんなビジネスなんでしょうか。
伊藤さん:高度IT人材のシェアリングサービスですね。最近話題のAIとか、データアナリスト、クラウドコンピューティングなどに精通した人材を、世界規模で仲介したいと思っていて。
――すごいですね。そういうサービスをやろうと思った理由は?
伊藤さん:たとえば日本だと、2030年頃には高度IT人材が30万人足りなくなる、という試算が出ています。既存プログラマをリスキリングして高度IT人材になってもらう、という方向性もありますが、とても間に合わない。
――その足りない分を、海外から調達すると。
伊藤さん:そういうことです。海外の高度IT人材を、クラウドのラボ型で好きなだけ使えるシステムを作り始めてます。
――既に動き始めていると。そのサービスの運営自体も、海外人材が行うのですか?
伊藤さん:ええ。優秀な人材の多いインド工科大学から東大院を出た人材を教育中で、来年も同じくインド工科大学のコンピューターサイエンスから3人採用することが決定しています。今年日本にインターンで来ていただいて、2ヶ月間一緒に働いたメンバーです。
全員優秀なうえに、事業欲というかハングリー精神がありますね。今後も継続してインド工科大学の出身者を採用していきたいと考えています。
――すごいですね! 今後の活躍にも注目させていただきます。本日は貴重なお話をありがとうございました!
伊藤さん:ありがとうございました。