新規事業の成功を左右する最重要概念、それがPMF(Product Market Fit)です。数多くの企業がこのPMFを目指して奮闘していますが、実際に達成できるのはごく一部に過ぎません。本記事では、PMFの本質から判断基準、達成のための具体的な手法まで、実践的な知見を体系的に解説します。
目次
PMFとは、”市場からプロダクトが受け入れられている状態”を指します。この数年でよく耳にするようになった言葉ですが、多くのビジネスパーソンがその本質を誤解しています。
創業したてのスタートアップにとって、最初のプロダクトがPMFに到達するかどうかは、会社が存続できるかどうかを意味します。ファーストプロダクトは会社そのものであり、素早く立ち上げてPMFへの道を模索することが求められるのです。
シードラウンドで数千万円の資金を得た企業は、必死にPMFを目指します。そしてPMFに限りなく近づいているか、PMFしたことを確信できると、シリーズAラウンドで数億円から数十億円を調達できる段階に進めます。
「自社のプロダクトはPMFしているのだろうか?」と疑問に思っている状態は、ほとんどのケースでPMFしていません。PMFしたときは明らかにそれとわかるものです。ただし、PMFには明確な定義がないため、経験的な状態を読み取ることが重要になります。
PMFできていれば、プレスリリースを打つだけで見込み客からの問い合わせがたくさん来ます。営業が売りに行くと短期間で受注でき、若手の営業でもどんどん売れる状態になります。そこにマーケティング予算を投じると、さらに売上が伸びる正しいサイクルに入ります。
具体的には次のような兆候が見られます。広告費を使っていないのに問い合わせがコンスタントに来る、営業を増やした分だけ売上が伸びる、このままいけば順当に黒字化するという目処が立つ——これらがPMFの明確なシグナルです。
マーケティング活動はPMFと密接な関係にあります。プレスリリースを配信しただけで問い合わせが来たら、次は予算を投じて広告やPRなどの施策を打ってみます。投資額以上に利益が出たら、それは明確にPMFしている状態です。
経験的には、CPA(顧客獲得単価)が1万円を切るぐらいでリード獲得できていればPMFは相当近いと言えます。逆にCPAが高くなるのであれば、プロダクトの魅力が足りないか、市場に適合していないということです。
営業活動においてもPMFのシグナルは見えてきます。PMFしている状態では商談後、すぐに受注できるケースが増えます。目安としては、商談単価100万円から500万円程度の製品が3ヶ月以内にコンスタントに受注できればPMFしていると言えるでしょう。
わかりやすいシグナルとして、「若手の営業マンでも受注できる」というものがあります。創業期は社長自らどんどん営業していて、「社長だから」で売れてしまうことがよくあります。しかしPMFしている製品は誰でも売れます。経験の浅い営業でも売れるのは、製品が市場に求められているからです。
PMFしている製品は解約も少ないのが特徴です。受注がコンスタントに伸びながらも年間の解約率が10%以下であれば、しっかりと市場に受け入れられています。9割以上の顧客がリピートしていれば上出来、7〜8割がリピートしていれば悪くない水準です。
PMFしている製品を使っているユーザー企業は満足度が高いため、実名顔出しの事例インタビューを快く受けてくれます。SaaSのプロダクトを提供しているスタートアップのホームページを見るとよくわかります。PMFしている会社やPMFしつつある会社の場合、豊富な事例が載っているはずです。
一方、うまくいっていない会社のホームページには、載っている事例が少ないか、載っていたとしても企業名が伏せられていたりします。そうそうたる会社の事例が出ているというのは、PMFの1つの証だと言えます。
逆にPMFできていないとどうなるか。まず売れません。商談はあるけれど成約に至らないという状態です。リードはマーケティング費用をかければ取れるけど決まらない——興味は引けても実際の購買につながっていないということです。
あるいは受注数は伸びているけれど解約率が高いというパターンもあります。顧客が一度は興味を持って契約してくれたものの、長続きしないのです。
営業に売るためのトレーニングをしても全然売れないというのもPMFしていないシグナルの1つです。いくら営業スキルを磨いても、プロダクトそのものに魅力がなければ売れません。
さらに、プレスリリースを配信しても反響がない、広告予算を投じても何も起きない——それもPMFしていない状態をはっきりと示しています。魅力がなく、ニーズがないから、見込み客からの関心を引き付けられないのです。
わずかな導入企業がいたとしても、なかなか事例インタビューが決まらないというのも要注意です。顧客が自社のプロダクトやサービスを使って大きく成功した事例がないということは、価値提供ができていないことの表れです。
競合と比べて自社のプロダクトが選ばれるべき理由を誰も説明できないというケースも往々にしてあります。「A社、B社と3社競合となったとき、御社の勝ち筋はどこにありますか」という質問にすぐに答えられないようでは、PMFはできません。自社の強みや独自性が明確でないと事業の継続性が見込めず、事業の転換あるいは発想の転換が必要になります。

新規事業を成功させることの難しさはもう言うまでもありません。そもそも新規事業はほとんど失敗すると言われています。スタートアップが何もないところからアイデアを出し、プロダクトを作り上げ、それが市場に受け入れられる確率は相当低いものです。IPOやM&Aなどを成功の定義とした場合、その確率は1%前後とされています。
大企業の新規事業も、豊富なリソースがあるとはいえ、数年のうちに撤退するものがほとんどです。とにかく新規事業の成功は非常に難しい。
ではなぜ多くの会社が失敗してしまうのか。大きな理由としてあるのが、顧客ニーズがわかっていないのに商品を作ってしまうからです。
大企業の新規事業部門からご相談をいただくことも多いのですが、話を聞きに行くと、たいていの場合すでにプロダクトを作ってしまっています。自分たちで議論してたどり着いた仮説に基づいて、プロダクトを完成させてしまっているのです。これは時期尚早だと私は考えます。
そういった場合にアドバイスするのは、プロダクトは一旦作らなくていいということです。開発に取り掛かっているのであれば、そんなに急がなくていいと伝えます。
その代わりにやるべきことは、パワポのスライド4〜5ページでいいので、そこにプロダクトのイメージ図や、どんな機能を持っていて、どういう課題を解決できるのかをまとめることです。それを持ってテストセールスをすることをアドバイスします。
プロダクトはなくても一向にかまいません。その商品を顧客にプレゼンして、本当に買ってもらえるかどうか、ニーズの有無をまず確認してください。
私もスタートアップで新規事業を担当していたとき、プロダクトがない状態で資料だけ持ってプレセールスに出向いたものです。しかし実はそこにも落とし穴があります。
既存の顧客や人脈を使って、「こういう新規事業を考えているんですが、どう思いますか?」と聞くと、おそらく10人中8〜9人は「いいですね」と言うと思います。そういうとき、人は簡単に「いいね!」と言いがちなんです。
なぜかというと、その相手からすると、ネガティブなフィードバックをするメリットがまったくないわけです。わざわざ足を運んでもらっている相手にネガティブなことは言いづらいですし、他社の新規事業に対して正直にフィードバックするインセンティブがありません。
テストセールス、プレセールスといった類のものはすべて無意味なのか——そんなことはありません。プロダクトを開発する前にヒアリングするときのコツは、仮申込書までもらうのを徹底することです。
新規事業の資料を見せながらプレゼンして、仮申込書を出したときに相手の本音が出ます。「ローンチは1年後なんですけども、もし本当にいい商品だと思っていただけたら仮の申込書にサインをいただきたいんです」このように言うと、途端に本音が出てくるんです。
仮申込書とはいっても契約書ですから、サインするのはそれなりの重みがあるので相手の本音が引き出せます。申込書を出されてはじめて、「この機能がないとうちは無理だよ」みたいなことが言ってもらえます。
いま検討中のプロダクトを本当にこのまま開発するべきなのか、アイデアの筋がいいのか・悪いのか、作る前にわかるのはとても大事なことです。エンジニアが時間をかけて作った後だともう引けませんから。

例えば10社にテストセールスして4〜5社から仮申込書をもらえたら、PMFの可能性はかなり高いと言えます。申し込み率が30%を超えていたらかなり筋がいいんじゃないでしょうか。
しかし意外とこういった活動をやっていない会社も多いです。せっかく事前にニーズを探るチャンスがあるのに、プロダクトをローンチしてしまい、売りながら聞いていくケースが非常に多いのです。
プロダクトができてから顧客をまわってニーズ検証するのではなく、作る前からちゃんと検証しましょう。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、これをやっていないケースが意外と多いんです。会議室の中の議論から生まれた新規事業では、顧客ニーズがわかっているようでわかっていません。
メルカリに在籍していたとき、新規事業の部署でよく話していました。「自分たちはこのサービスの顧客対象ではないのだから、この場だけで議論していても必ずどこかずれてしまう。ちゃんと消費者インタビューをして顧客理解を重ねていこう」と。
スマートニュースにいたときも同じでした。クーポンの新規事業を立ち上げた際も、それらを使ってくれる消費者の話を聞かなければ、仮説がずれてしまいます。社内の議論だけでは本当の顧客ニーズをつかめない——その前提に立って進めないとPMFに至らないのです。
ではPMFしていないプロダクトをPMFさせるにはどうするか?プロダクトの機能を改善したり、事業そのものをピボットしたりすることももちろんありますが、その前にターゲットや売り方を変えることを考えてみましょう。
まったく同じプロダクトでも、訴求の仕方で売れるケースと売れないケースがあります。つまりプロダクトそのものだけでなく、マーケティングや営業のアプローチも重要になってきます。
典型的な例として、とある「ハサミ」の話があります。これはPMFの事例として非常に興味深いものです。一般消費者向けの事例ですが、まったく同じハサミが訴求を変えただけで売り上げが3万本から100万本にまで伸びました。まさに驚異的な成長です。
どんなハサミかというと、最初は「海苔切りばさみ」として販売された商品でした。A4用紙くらいの大きさの海苔を、食べやすい大きさに切るための専用ハサミです。1枚の海苔にハサミを入れるだけで、海苔を細かく均等に千切りにできる。お蕎麦やサラダに振りかけるときはとても便利です。
でも海苔を切るだけではマーケットが狭い。当初はスーパーや量販店の主に台所用品の売り場に置かれていました。
ところがある日、そのメーカーの社員が消費者がこの海苔切りばさみでシュレッダーのように紙を切っているという声を耳にしたんです。これはおもしろい発見です。当時は個人情報保護への関心が高まっていた時期だったので、「シュレッダーを買うほどじゃないけど、個人情報を含む書類はしっかりと処理したい」というニーズがありました。
ここに「海苔切りばさみ」の新しい市場の可能性を見出したわけです。メーカーはさっそく、海苔切りばさみに違う名称とパッケージを与えて、「シュレッダー用のハサミ」として売り出しました。それまでは台所用品やキッチン用品売り場に置いていたのを、文房具売り場で販売したのです。

これは単なる販売場所の変更ではなく、ターゲットの変更を意味します。その結果、なんと海苔切りばさみだった時は3万本しか売れなかったハサミが、シュレッダー用のハサミとして売ったら100万本の大ヒットになりました。
これはまさにターゲットと用途、売り方を変更してPMFを達成した瞬間と言えるでしょう。つまりPMFというのは単純に機能だけの問題じゃないんです。売り方も含めて考える余地があります。
プロダクトの機能や品質を向上させることも大切ですが、それと同じくらい、どのように顧客に価値を伝えるか、どのような文脈で製品を提示するかも重要です。
私自身の経験でも同じようなことがありました。メルペイ事業の立ち上げを担当していたときのことです。最初は店舗をまわって、「メルペイという決済をお店で使ってくれませんか」という営業をしていたんですが、ほぼ門前払いだったんです。新しい決済システムを導入することへの抵抗感が強かったんでしょう。
それを「メルカリの売り上げ金があなたのお店でも使われるようになります」という訴求に変えました。これは単なる言い方の変更ではなく、店舗側のメリットを明確に示す方法への転換です。
そうしたら、前までは全然門前払いだったのが、だんだんと話を聞いてもらえるようになり、最終的にメルペイを導入してもらえることが増えてきました。店舗側にとっては、メルカリユーザーという大規模な新規顧客を獲得できる可能性を想像できたわけですね。商品はまったく一緒ですが、伝え方を変えただけで結果が大きく変わりました。
だからたった1人の営業であってもPMFに貢献できるんです。PMFは新規事業部門だけの課題ではありません。営業、マーケティング、カスタマーサポートなど、顧客と接点を持つすべての部門が解決のきっかけになり得る課題なんです。
さきほどのハサミの例で言えば、ターゲットと用途を変える判断に至ったきっかけはユーザーの声でした。それを的確にキャッチして、すくい上げたのはカスタマーサポートやマーケティングの部署のメンバーだったかもしれません。それによって最後は単なる用途の変更ではなく、まったく新しい市場への参入がなされました。
これはすごく勇気を持てる事例だと思います。新しいプロダクトを開発しなくても、既存のリソースを活用して大きな成果を上げられる可能性があるからです。
一般的に、新しい商品とか斬新な商品じゃないと売れない、事業が伸びないと思われがちですが、それだけではありません。狙うターゲットと用途を少しずらすことでPMFの可否が変わってきます。イノベーションは必ずしも新しい技術や製品を必要としないということです。
これまでの話とは逆に、ある程度はプロダクトを作ってしまっても問題ない新規事業もあります。それは例えば、日本では初めての事業だけど海外では先行している企業がある場合です。ライドシェアなどがそうですね。
日本では法規制がありますが、それさえ改正されれば確実に伸びるのがわかります。そういった場合は、ユーザーインタビューはそこまで必要がないこともあります。
PMFというのは、「そもそも市場があるか」すらわかっていない世界のこと。すでに競合の商品があって、それを追いかけるのであれば、PMFの道を探るというよりは「二番手戦略をどう展開するか」という話になります。
そういう意味でいうと、DMMはとても上手だと思います。たとえばDMMの英会話サービスは後発です。何の後発かというと「レアジョブ」です。最初にオンライン英会話サービスを始めたのはレアジョブでしたが、それがPMFした瞬間に、DMMは追いかけています。
DMMの戦略は、おそらくGAFAMやソフトバンクのような大企業が手を出してこないような事業規模、つまり市場規模がそこまで大きくない、数兆円もするようなマーケットではないところで、自分たちが勝てる領域を見つけ出して勝負することです。
先行するスタートアップを買収するか、それができなければ自分たちが後から立ち上げてリプレイスしていく。レアジョブの件でいうと、もしかしたらDMMは買収を申し出たんじゃないかと思っています。レアジョブがPMFして非常に伸びていて、まだ資金力が弱いタイミングで買収を試みたのではないでしょうか。それで応じなかったから自分たちで立ち上げたという形かもしれません。
ハサミの例やメルペイの例が示すように、ときには小さな変更が大きな結果をもたらすことがあります。新規事業を立ち上げるのは実際にはかなり難しいですが、常に柔軟な思考を持ち、新しいアイデアを試す勇気を持つことがPMF達成への近道となるでしょう。
PMFは新規事業やスタートアップにとって最初の大きな山であり、会社の存続を左右する重要な概念です。明確な定義はないものの、経験的なシグナルを読み取ることで、自社のプロダクトがPMFしているかどうかを判断できます。
重要なのは、プロダクトを作る前に顧客ニーズを徹底的に検証すること、そして既存のプロダクトであってもターゲットや訴求方法を変えることで大きな成果を上げられる可能性があるということです。
新しいプロダクトを開発しなくても、既存のリソースを活用して大きな成果を上げられる——これはすべての新規事業担当者にとって勇気を持てる事実です。常に柔軟な思考を持ち、顧客の声に耳を傾け、小さな変更を恐れずに試していくことが、PMF達成への確実な道となるでしょう。
PMFを最短最速で実現!マイノリティのサービスと実績
この記事を書いたひと
株式会社マイノリティ 代表取締役
柳澤 大介
新規事業のマネタイズやグロースが専門。埼玉大学で「イノベーションとマーケティング講座」の講師を務める。監修した「法人営業の教科書」はUdemyの販売実績2,800万円のベストセラー。