BtoBスタートアップの成長戦略において、パートナーセールス(代理店販売)の重要性は年々高まっています。直販だけでは実現困難なT2D3の急激な売上成長を、限られたリソースで達成するための有効な選択肢として注目を集めているのです。
しかし、多くの企業が「代理店を増やしたのに売上が伸びない」という壁にぶつかります。本記事では、パートナーセールスの基礎知識から実践的な戦略立案、インセンティブ設計、関係構築の方法まで、成功するために必要なすべてのステップを体系的に解説します。
目次
パートナーセールスとは、自社の商品やサービスを直接エンドユーザーに販売するのではなく、他社(パートナー企業および代理店)を通じて販売する手法です。簡単に言えば、販売のプロである他社に販売を委託するモデルを指します。
パートナーセールスの重要性や導入時期は業界によって大きく異なります。
例)製造業・建設業の販売方法
日本の伝統的な製造業や建設業では、パートナーセールスは基本的な形態です。
三菱電機やオムロンといった大手製造業メーカーは、商社と呼ばれる代理店を通じて製品を販売しています。例えば、北海道にあるA社が三菱電機のセンサーを購入したいと問い合わせても、実際に連絡が来るのは三菱電機本体ではなく、その地域を担当する商社からというケースが一般的です。
ただし例外もあります。同じ製造業でもキーエンスは代理店を通さない直販モデルを採用しています。これは、顧客の声をダイレクトに製品開発へ活かすという戦略的な判断によるものです。
例)IT・SaaS業界の販売方法
一方、ITサービスやSaaS業界では、事業立ち上げ当初は直販モデルからスタートするケースが多数派です。まず自社の営業部隊がエンドユーザーと直接対話し、製品の価値を伝えながら市場を開拓していきます。
製品が市場に受け入れられ、プロダクト・マーケット・フィット(PMF)を達成すると、資金調達と同時にさらなる成長加速が求められます。そこで初めてパートナーセールスを取り入れようとする企業が近年は増えています。自社の人的リソースだけでは急速な市場拡大に限界があるためです。
SmartHRやfreeeといった国内の有力SaaS企業も、PMFを終えて成長フェーズに入ってからパートナープログラムを本格的に展開し、税理士や社労士、ITベンダーといったパートナーとの連携を深めています。
パートナーセールスを検討する上では、直販モデルとの違いを正しく理解しておくことが重要です。どちらか一方が優れているというわけではなく、自社のビジネスモデルや成長フェーズ、リソース状況に合わせて最適な販売戦略を選択する必要があります。

パートナー戦略を立てる最初のステップは、自社が属する業界の構造を深く理解し、潜在的なパートナー候補がどこにいるのかを見定めることです。
まず、業界の商流を正確に把握することが重要です。業界によって、商品やサービスが顧客に届くまでの流れ、つまり関わるプレイヤーとその役割は大きく異なります。
製造業、広告業界、IT業界など、それぞれに特有の商流があります。自社の業界ではどのようなプレイヤーが存在し、どのような役割を担っているのかを理解することで、パートナー候補となりうる企業が見えてきます。自社の商流を図式化してみるのも有効です。
次に、競合他社がどのようなパートナー戦略を取っているかを分析します。競合がどの企業と組み、どのような関係を築いているかを知ることで、業界の標準的なモデルや、自社が狙うべきポジション、あるいは未開拓のチャンスが見えてくることがあります。
競合のウェブサイト調査、業界レポートの分析、展示会での観察などが有効です。最近では、ChatGPTやGeminiのディープリサーチを活用し、「〇〇社の代理店一覧」といった情報を効率的に集めることも可能です。
有望なパートナー候補を見極める上で、いくつか重要なポイントがあります。
1. 顧客セグメントの共通性
自社と同じ顧客層にアプローチしている企業は、すでに顧客との関係性を持っているため、スムーズな販売活動が期待できます。
2. 製品・サービスの補完関係
自社製品と組み合わせることで顧客への提供価値が高まる製品を扱っている企業も、良いパートナー候補となります。互いの強みを活かせるため、協力関係を築きやすいでしょう。
3. 販売力の評価
パートナー候補がどれだけの営業リソースを持ち、どのような顧客基盤を持っているかを見極める必要があります。
有望なパートナー候補を効率的に見つけるための具体的な方法をいくつか紹介します。
1.AIを活用したリサーチツールの活用
競合調査だけでなく、特定の条件に合う企業リストを作成する際にも役立ちます。「A社が過去3年間に出展した展示会」といった情報から、業界内での活動状況を把握できます。
2.専門家へのヒアリング
ビザスクのようなプラットフォームを使えば、特定の業界に詳しい人物に直接話を聞くことができます。自社に知見がない業界への参入を検討している場合、現場のリアルな情報を得られるだけでなく、その場で有力なパートナー候補に出会える可能性もあります。
3.業界団体へのアプローチ
シェアリングエコノミー協会、日本マーケティング協会、各種ユーザー会など、自社のターゲット層や関連企業が集まる団体に参加することで、自然な形で接点を持つことができます。パートナーセールスは長期的な信頼関係が求められるので、オフラインでの関係構築も重要になります。
パートナー候補がある程度見えてきたら、次にアプローチの優先順位を決定します。
最優先すべきは、ターゲット顧客との親和性。製造業向けなら製造業に強いコンサルティング会社(たとえば船井総研など)、地域密着なら地方銀行など、すでにターゲット顧客との信頼関係を築いているパートナーは非常に強力です。
次に、実際の販売力です。単なる企業規模ではなく、ターゲット層の顧客基盤の大きさ、営業リソースの充実度、そして業界での信頼性といった観点から評価します。例えば、店舗ビジネスに強いUSENは、その業界向けサービスを展開したい企業にとって有力な候補となります。
パートナーセールスを開始する際、多くの企業が陥りがちなのが「とにかく数を増やす」という考え方です。しかし、成功への近道は「小さく始めて、深い関係を築く」ことにあります。
理由1.リソースの問題
特にスタートアップでは、パートナー支援に割ける人手も時間も限られています。多くのパートナーと浅く付き合うより、少数のパートナーと密接に連携する方が効果的です。
理由2.教育・サポートの質を保つ
パートナーが自信を持って製品を売るには、丁寧な教育とサポートが不可欠ですが、数が増えると一社あたりにかけられる時間が減ってしまいます。
理由3.成功モデルを確立しやすい
少数のパートナーで成功事例を作り、そのノウハウを横展開する方が、効率的にスケールできます。
パートナーセールスの初期段階では、パートナー数を3〜5社程度に絞ることを強く推奨します。理由は、この規模であれば、各社に十分なサポートを提供できるからです。
また、パートナーからのフィードバックも即座に収集でき、製品改善などに活かしやすくなります。実際、パートナーセールスを通した売上の大半はごく一部の「本当に動いてくれる」パートナーが生み出すことが多いものです。
そして何よりも、初期のパートナーで成功事例を作ることが極めて重要です。成功事例は、新たなパートナーを開拓する際の強力な武器になります。成功モデルができれば、それを他のパートナーに横展開していくことで、効率的な拡大が可能になります。
理想的なパートナー候補を絞り込んだら、次はアプローチです。
有力候補に対して特に有効なのが「CXOレター」です。これは、企業のトップマネジメント層宛てに送る、パーソナライズされた手紙のこと。単なるセールスレターではなく、明確なパートナーシップの提案や相手企業にとってのメリットなどを具体的に盛り込むことが重要です。
相手企業のビジネスにいかに貢献できるかを明確に示すことで、トップの関心を引きつけるようにします。
適切なパートナーを見つけることができたら、次に考えるのは「どのような契約形態で連携するか」「どんなインセンティブ設計をすれば積極的に売ってくれるか」といった点です。
1.ディストリビューター型(代理店モデル)
ディストリビューター型は、メーカーが代理店に商品を卸し、代理店がエンドユーザーに販売する、最も一般的な代理店モデルです。メーカーから代理店への卸値と、エンドユーザーへの販売価格の差額がマージンとなります。そのため代理店がエンドユーザーに対して契約や請求まで行います。
一次代理店はメーカーから直接商品を仕入れる代理店で、その下に二次代理店、三次代理店と階層構造が存在することもよくあります。階層が下がるにつれて利益率は低くなるのが一般的です。
2.ソリューションパートナー型
ソリューションパートナー型は、製品販売だけでなく、導入支援やカスタマイズなどの付加価値サービスも提供するパートナーシップです。パートナーは製品販売に加え、コンサルティングや導入支援も提供するため、製品販売のマージンのほかに導入サービスでも収益を得られます。
この契約形態は対象となる製品やサービスに専門的な知識が必要な場合に適しています。
パートナーセールスを成功させる鍵は、パートナーが積極的に自社製品を販売したいと思える魅力的なインセンティブ設計にあります。特に重要なのは販売したときに得られるマージン(原価と売価の差額)です。
ただし、「マージンだけでパートナーが動くわけではない」という点を認識する必要があります。初期段階でよく陥りがちな誤解として、「相手への卸値を低くしておけば、あとは売れば売るほど儲かるでしょ」という考え方があります。実はこれだけでは全然売ってもらえないケースがほとんどです。
パートナー企業は自社以外にも数多くの商材を扱っています。その中で自社製品を優先的に販売してもらうためには、マージン設定に加えて、売りやすさやサポート体制なども含めた価値提案が必要になってきます。
マージンの料率は業界や製品によって異なりますが、SaaS製品の場合、代理店への卸値は定価の80〜85%程度、つまりマージン15〜20%が標準的です。これはライセンス型の販売が主流で、導入後のサポートや運用は提供元企業が担当するケースが多いため。
広告業界でも代理店マージンが20%程度というケースが一般的です。
また、取引ボリュームに応じてマージン率が変動する仕組みもよく見られます。例えば「年間10億仕入れてくれたらマージンは10%だけど、20億仕入れて売ってくれるなら20%にします」といった設計です。大口取引に対するボリュームディスカウントという考え方です。
さらに発展したインセンティブ設計として、「階段状のインセンティブ構造」も効果的です。これは基本のマージンに加えて、一定の販売目標を達成した場合に追加のインセンティブを提供する仕組みです。
例えば「◯◯億円売るまでは◯千万円のインセンティブだけど、◯◯億円を超えたらさらに◯千万円を+αで乗せる」という設計にすることで、パートナーの販売活動を促進する効果があります。
パートナーセールスにおいてよく聞かれるのが、エンドユーザーへの販売価格をどうコントロールするかという点です。パートナーによって販売価格がバラバラになると市場の混乱を招くこともあります。
多くのメーカーは製品やサービスの「定価」を設定し、パートナーにはその一定割合を卸値として提示します。パートナーは定価からの値引きは自らの裁量で行えますが、通常は定価を超える価格設定はやりづらいもの。その理由はメーカーが直販価格として定価を公開しているためです。
価格を公開しない場合、各代理店が独自の価格設定を行い、同じ製品でも価格が大きく異なるという状況も出てきます。こうした状態が続くと顧客同士が情報交換した際に不信感を生み、解約リスクにもつながります。
この問題に対する解決策として、「広告費と運用費を明確に分離する」という方法があります。Google広告のように、広告費を透明化し、それとは別に代理店側は運用費やコンサルティング費と明示して上乗せするというモデルです。

適切なパートナーを選び、魅力的な契約内容を提案できたとしても、そこから継続的に成果を出し続けるためには、パートナーとの関係構築と維持が成功の鍵を握ります。
定例会議はパートナーとの関係を構築・維持していく上で、最も基本的かつ大事なコミュニケーション手段です。定例会議の主な目的は次の通りです。
これらの目的を達成するために、定例会議では以下のような項目を取り上げます。
1. 質問対応・要望確認
パートナーからの具体的な質問や要望を受け付け、回答します。販売活動上の疑問や障壁を取り除くことを目指します。特にパートナーシップ初期には欠かせない優先度の高い項目です。ここに時間を惜しんではいけません。
2. 商談の共有と進捗確認
進行中の商談状況や、新たに発生した商談情報を共有します。バッティングの可能性を確認し、必要なサポート内容(同行、資料提供など)について議論します。
3. 製品アップデート情報の共有
新機能のリリース、仕様変更、今後の開発ロードマップなど、製品に関する最新情報を伝達します。
4. 勉強会・トレーニング
製品知識の深化、効果的な販売トークや提案方法の共有など、パートナーの販売スキル向上に繋がる情報を提供・交換します。
頻度はできれば隔週、時間は60分もあれば十分です。
実際にスタートアップがパートナーセールスを始めた事例では、当初は質問対応だけで定例会議の大半の時間が費やされることが多いです。
質問が多いことは決してネガティブではありません。むしろ質問が多いということは、パートナーがそれだけ前のめりに販売していただいたり、そもそも不明点が多いということです。定例会議や勉強会でそれがなくなるようにちゃんとレクチャーするのがパートナーセールスの仕事です。
同時に欠かせないのは、双方が「窓口を一本化」すること。パートナー側も複数の担当者がバラバラに問い合わせをするのではなく、窓口となる担当者に一度情報を集約してから伝えるようにすると、コミュニケーションが効率化されます。
パートナーがより効果的に顧客と商談を進められるよう、適切なサポート体制を整えることが重要です。
商談サポートの基本姿勢
パートナーセールスにおいては「商談同席」や「ミーティング同席」が頻繁に行われます。特に初期段階では、パートナーだけでは顧客の質問に十分答えられないケースがあるため、必要に応じてメーカー側が商談に同席することが求められます。
ただし、リソースが限られているスタートアップでは、成約確度が高いと判断される商談を優先的にサポートする戦略を立てるべきでしょう。
バッティング防止の仕組み
複数のパートナーが同じ顧客にアプローチするバッティングは、深刻なトラブルの原因となります。防止するためには、明確なルールと情報共有の仕組みを構築することが欠かせません。
商談のバッティングを防ぐためには、「商談運用ガイドライン」という形で、バッティングした際のルールを明確にしておくことを推奨します。
バッティング防止ルールとしては、先に商談情報を登録したパートナーに優先権を与える「先着順」が最も一般的です。また、顧客に最終的な選択権を与える方式もけっこう採用されています。
自社の営業とパートナーがバッティングした場合は、パートナーを優先するのが一般的です。目先の利益は低くなっても、パートナーを立てましょう。
これらのルールを運用するためには、すべてのパートナーが商談情報を即座に共有する仕組みが必要です。スプレッドシートなどに商談が発生した日付と誰と話しているのかを適宜更新してもらい、バッティングしたときは先に入力した方を優先するという運用がよいと思います。
ロードマップの先行公開
製品の今後のアップデート予定や機能追加計画といった、いわゆる「製品ロードマップ」は、パートナーにとって価値のある情報です。エンドユーザーへの提案時にも「今後このような機能が追加される予定です」と伝えることで、営業活動がしやすくなります。
マーケティング施策の共有タイミング
新製品発表やマーケティングキャンペーン、CM放映などの大型施策は、できるだけ早くパートナーと共有しておきたい情報です。
理想的には、マーケティング施策の発表前にパートナー向けの説明会を実施して、「来週からこのようなCMが始まります」「これによってこのくらいの問い合わせ増が見込まれます」といった情報を事前に共有すべきです。
ただ、CMの内容や放映時期などの情報は、競合他社に漏れると効果が半減してしまう可能性もあります。パートナーとの間でしっかりと機密保持の契約をしておく必要があります。
パートナー数が増えてくると、全部のパートナーを同じように手厚く…というのは、正直無理が出てきます。そこで、パートナーを評価し、ランク付けする制度が必要になります。
パートナーのティア(階層)分けは、限られたリソースを効果的に配分するために役立つ仕組みです。一般的には「Tier1」「Tier2」「Tier3」といった形で分類します。
大事なのは、このティア分けがパートナーにとっても価値のある仕組みになっていることです。上位ティアに属することでより良い案件紹介や高いマージン率など、明確なメリットを用意できるといいですね。
上位ティアのパートナーには、それにふさわしい特典を用意することで、ティア制度の価値を高めます。
たとえば、高いマージン率や特別なインセンティブプログラムは、直接的な金銭的メリットとして効果があります。優先的な案件紹介も重要な特典です。メーカーに直接来た問い合わせやリードを、まずTier1のパートナーに紹介するという仕組みは、パートナーにとって大きな価値があります。
新製品や機能の情報をいち早く共有することも差別化につながります。パートナーにとって「先行して情報を得られる」ことは大きなメリットとなります。
パートナーセールスを始めた企業が陥りやすい失敗パターンをいくつか紹介します。これらを事前に認識しておくと、同じ失敗を避けることができるはずです。
パートナーセールスにおける大きな痛手の一つが、重要なパートナーを競合に先に押さえられてしまうこと。特に「エクスクルーシブ契約」(独占契約)を結ばれてしまうと、そのパートナーを通じた販売の道が完全に閉ざされてしまいます。
この問題を避けるためには、パートナー戦略の早期立案と、業界内の有力パートナーの特定、そして競合より先のアプローチが重要です。
「たくさんの会社とパートナー契約したけど、売れるのはそのうち数社だけ」という状況は、パートナーセールスにおいてよく見られる失敗パターンの一つです。
多くの企業が陥りがちな罠は、パートナーの「数」を追求すること。「契約パートナー数」といったわかりやすいKPIや短期的な成果指標に注目してしまい、一社一社との関係構築や実際の売上貢献までフォローが行き届かなくなるのです。
結果として、多くのパートナーと契約は結んだものの、貴重な社内リソースが分散し、一社あたりのサポートは手薄になりがちです。これではパートナーの製品理解も進まず、販売する意欲も上がりません。
インセンティブ条件だけに注力し、関係構築を怠ってしまうのもよくある失敗パターンです。
パートナー企業も複数の商材を扱っているため、単にマージンが良いというだけで自社製品を優先的に販売してくれるとは限りません。日常的なコミュニケーションや信頼関係がなければ、パートナーにとって「売りやすい」「サポートしやすい」「紹介したい」商材にはなりにくいのです。
あるニュースアプリの会社は代理店販売を中心としたセールスモデルを構築し、売上の大半を代理店チャネルから生み出しました。
初期の代理店戦略
このニュースアプリの初期の代理店戦略で特徴的だったのは、立ち上げ段階から代理店チャネルを重視した点です。多くのスタートアップが最初は直販から始めるのに対し、広告ビジネスという特性から早期に代理店モデルを採用しました。
そして初期の代理店対応では、代理店の人員にも自社オフィスに常駐してもらうという徹底した関係構築を行ったことが、のちの成長の基盤となりました。
一次代理店と二次代理店の構造
このニュースアプリの会社が構築した代理店構造の特徴は、限られた一次代理店とだけ直接契約をした点にあります。だいたい5社程度に絞っていました。これらの一次代理店の下に、より小規模な二次代理店、三次代理店が位置する階層構造を採用していたのです。
この構造の大きな利点は、自社側のリソース効率です。限られたチーム規模でも効果的なパートナー管理が可能になりました。新たな代理店からの問い合わせがあった場合も、すべて一次代理店を紹介するというシンプルな対応が可能になりました。
ベルフェイスは、Salesforceとの強力なパートナーシップにより成功した代表的な企業です。
補完製品としてのポジショニング
その戦略で最も特筆すべき点は、Salesforceの機能を拡張し、補完する製品としてポジショニングした点です。
具体的には、Salesforceのアプリとしてベルフェイスが連携できるように技術開発を行いました。例えば、ベルフェイスで電話や商談をすると、その内容が自動的にSalesforceに同期されるといった機能を実装したのです。
この連携により、ベルフェイスは売り上げを伸ばしていきました。こうした「補完製品」としてのポジショニングは、パートナーシップの形態として非常に効果的なモデルの一つです。
単に「売ってください」ではなく、相手のビジネス価値も高める。この視点がパートナーシップでは重要です。
本記事では、スタートアップがパートナーセールスを成功させるための基礎知識から実践的な戦略まで、体系的に解説してきました。最後に、成功のための5つの鉄則をまとめます。
鉄則1:業界構造を深く理解し、適切なパートナーを選定する
業界の商流を把握し、競合のパートナー戦略を分析することで、自社にとって最適なパートナー候補が見えてきます。顧客セグメントの共通性、製品の補完関係、販売力の3つの観点から評価しましょう。
鉄則2:「小さく始めて、深い関係を築く」ことを徹底する
初期段階では3〜5社程度に絞り、一社一社に十分なサポートを提供することが重要です。成功モデルを確立してから横展開する方が、効率的にスケールできます。
鉄則3:魅力的なインセンティブ設計と透明性のある価格設定
業界標準のマージン率(SaaSなら15〜20%)を基準に、階段状インセンティブなどの工夫を加えることで、パートナーのモチベーションを高められます。また、エンドユーザー価格の透明化により、市場の混乱を防ぐことができます。
鉄則4:定例会議と手厚いサポートで信頼関係を構築する
隔週60分程度の定例会議で、質問対応、商談共有、最新情報の伝達を行い、パートナーとの信頼関係を深めましょう。特に初期は質問対応に十分な時間を割くことが重要です。
鉄則5:長期的な視点でパートナーシップを育てる
パートナーセールスは「単なる販売チャネルの追加」ではなく「長期的なビジネスパートナーシップの構築」です。短期的な売上目標だけでなく、相手企業のビジネス価値も高める視点を持つことで、持続可能な成長が実現できます。
パートナーセールスは、限られたリソースで急速な成長を実現するための強力な戦略です。本記事で紹介した5つのステップと鉄則を参考に、自社に最適なパートナーセールス戦略を構築してください。
この記事を書いた人
株式会社マイノリティ 代表取締役
柳澤 大介
新規事業のマネタイズやグロースが専門。埼玉大学で「イノベーションとマーケティング講座」の講師を務める。監修した「法人営業の教科書」はUdemyの販売実績2,800万円のベストセラー。